04:涙の魔法《エモ・シャイニー》と、はじまりの不安
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王宮の奥に、“涙の聖殿”と呼ばれる場所がある。
重厚な扉の奥、外の光がほとんど入らない静謐な空間。
ここでは、数百年の間、涙の力と向き合い続けた“感情司”たちが、感情と魔法の関係を研究してきたらしい。
「ナキマクリン様、こちらへ。……お足元にお気をつけて」
ローブ姿の案内人が丁寧に導いてくれるけど、俺はガッチガチに緊張していた。
「なんか……怖くね?この部屋」
「当然です。ここは“心の振動”が集中する場所。嘘や誤魔化しは通用しません」
俺は、泣き虫一号。
その涙が“神涙”とか呼ばれて、まさかの魔法習得に挑むことになってしまった。
……いや、うん、確かに異世界っぽい展開だけどさ。
魔法って、もっとビリビリドカーン!じゃないのかよ。
「では、魔法発動の準備を。
ナキマクリン様の“涙”は、通常よりも高密度の感情エネルギーを含んでいます。
正確に制御すれば、一部の封印や癒し系魔法に変換可能と判明しております」
「……“一部”って、めちゃめちゃ限定的じゃね?」
「ではまず、初歩の涙魔法の感情回路を開いてみましょう」
案内人の言葉と共に、目の前に置かれたのは……
ちいさな、涙型のクリスタルだった。
「それを手に持ち、自身の“心の揺れ”を思い出してください」
「心の揺れって……」
最初に泣いた、パンの耳の味。
おばあちゃんの手。温かさ。優しさ。
そして——
ルイ王女の、涙を許されないまなざし。
ティアの、無理して笑う横顔。
「……ッ」
目の奥が熱くなる。
その瞬間——
手のひらで、クリスタルが淡く光を放った。
「《エモ・シャイニー》、発動」
ふわり、と俺の身体を包むように広がった光は、
優しくて、でもどこかくすぐったい感じだった。
心を温める。そんな、感情そのものみたいな魔法。
「これは、涙の魔力を“空間共鳴波”に変換し、周囲の心を揺さぶる効果があります。
ただし、強制的に泣かせたりはしません。“心に染みる”だけです」
……地味すぎね?これ。
「魔法は……これだけ、なんですか?」
「はい。現状、ナキマクリン様の魔力量は“涙発動時のみ増幅”されるタイプ。
つまり、泣かないと発動しません」
「泣かないと……?」
「そして、《エモ・シャイニー》しか、まだ“泣いた記録”がございません」
え、泣き技、1個。
しかも、それだけ。
「大丈夫なんですか!? 旅、しますけど!?」
「大丈夫ではありません。が、あなたは“英雄”ですので」
「何その理屈ぅぅぅ!!」
*****
その日の夕方、訓練を終えて王宮のテラスに出ると、
ティアがベンチに座っていた。
頬杖をつきながら、夕陽に透ける髪を風に揺らして。
「おっ、修行終わった?」
「……一応」
「どうだった?」
「魔法、ひとつだけ覚えた。
……《エモ・シャイニー》。泣いたら使えるらしい」
「おぉ〜っ、それってあれじゃん。
空間を……えっと、何だっけ?心をポカポカさせるやつ?」
「それだけしかできないんだけどな」
「いいじゃん、泣けるだけでチートだって!」
ティアが明るく笑う。
それを見て、ちょっとだけ救われた気がした。
「ティアは、魔法とか使えんの?」
「うーん、ちょっとだけね。
旅用の光魔法とか、回避系のスキルは訓練受けたことあるよ。
でも、あたしの魔力って、感情が豊かすぎて“ブレる”んだって」
「感情が豊かすぎて……」
「うん。
“泣けないくせに、揺れ幅だけでかい”って、司官に怒られた〜」
ティアは苦笑していたけど、その目は少しだけ曇っていた。
「……感情がブレても、ちゃんと笑ってるじゃん。
それだけで、すげーことだと思うけどな」
ティアが、びっくりした顔をした。
そして、少しだけ頬を赤くして——
「……うん。ありがと」
彼女は、目を細めた。
遠くの夕焼けに手をかざして、
その光を指の間にすくおうとするように、そっと手を伸ばして。
「明日からだね、旅」
「……不安しかないけどな」
「大丈夫だよ。あたしがいる」
「……だな」
「……それと。あたしね」
風が、ふたりの間を通り抜ける。
ティアが、静かに言った。
「ナッキーが、涙の魔法をもっと増やせるように——
そのために、たくさん笑わせてあげる」
その言葉が、胸の奥に染みた。
涙が魔法になるなら。
彼女の笑顔は、俺にとっての“魔法の源”だって、そう思えた。
*****
そして、旅立ちの朝がやってきた。
王宮の門。
見送りに来てくれたのは、銀の髪に青のドレス
ルイ・ナケネーナ王女だった。
「ナキマクリン」
「……ん」
「これを、持って行って」
差し出されたのは、小さなブローチ。
中央に、水晶のような青い石が埋め込まれていた。
「……これは?」
「“共感石”。
私が何か感じたとき、ほんの少しだけ共鳴するわ」
「つまり、遠くにいても……」
「うん。私の心が、あなたの涙に……少しだけ届く」
ルイの声は、相変わらず静かだった。
でもその瞳の奥で、何かが小さくきらめいた気がした。
「ありがとう。……また、帰ってくるよ」
「ええ。……そのときは、旅の話を聞かせて」
ふと、横からティアがちょっとだけ顔をしかめた。
「わたしの話も、混ぜていいよね?」
ルイは微笑んだ。
「ええ。……ふたりで、たくさん見てきてね」
門が、静かに開く。
朝日が、ふたりの背中を照らす。
「——いこうか」
「うん!」
そして俺たちは、歩き出した。
不安もある。魔法は一個だけ。
でも、心には——ちゃんと、あったかい感情があった。
《エモ・シャイニー》が使えるかどうかより、
誰かの笑顔を、ちゃんと守れるかどうか。
それがきっと、旅の中で一番大事なことなんだと思う。
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