表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

04:涙の魔法《エモ・シャイニー》と、はじまりの不安

♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️評価や反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

王宮の奥に、“涙の聖殿”と呼ばれる場所がある。


重厚な扉の奥、外の光がほとんど入らない静謐な空間。

ここでは、数百年の間、涙の力と向き合い続けた“感情司”たちが、感情と魔法の関係を研究してきたらしい。


「ナキマクリン様、こちらへ。……お足元にお気をつけて」


ローブ姿の案内人が丁寧に導いてくれるけど、俺はガッチガチに緊張していた。


「なんか……怖くね?この部屋」


「当然です。ここは“心の振動”が集中する場所。嘘や誤魔化しは通用しません」


 


俺は、泣き虫一号。

その涙が“神涙”とか呼ばれて、まさかの魔法習得に挑むことになってしまった。


……いや、うん、確かに異世界っぽい展開だけどさ。

魔法って、もっとビリビリドカーン!じゃないのかよ。


 


「では、魔法発動の準備を。

ナキマクリン様の“涙”は、通常よりも高密度の感情エネルギーを含んでいます。

正確に制御すれば、一部の封印や癒し系魔法に変換可能と判明しております」


 


「……“一部”って、めちゃめちゃ限定的じゃね?」


 


「ではまず、初歩の涙魔法エモ・シャイニーの感情回路を開いてみましょう」


 


案内人の言葉と共に、目の前に置かれたのは……

ちいさな、涙型のクリスタルだった。


 


「それを手に持ち、自身の“心の揺れ”を思い出してください」


 


「心の揺れって……」


 


最初に泣いた、パンの耳の味。

おばあちゃんの手。温かさ。優しさ。


そして——

ルイ王女の、涙を許されないまなざし。

ティアの、無理して笑う横顔。


 


「……ッ」


 


目の奥が熱くなる。


その瞬間——


手のひらで、クリスタルが淡く光を放った。


 


「《エモ・シャイニー》、発動」


 


ふわり、と俺の身体を包むように広がった光は、

優しくて、でもどこかくすぐったい感じだった。


心を温める。そんな、感情そのものみたいな魔法。


 


「これは、涙の魔力を“空間共鳴波”に変換し、周囲の心を揺さぶる効果があります。

ただし、強制的に泣かせたりはしません。“心に染みる”だけです」


 


……地味すぎね?これ。


 


「魔法は……これだけ、なんですか?」


 


「はい。現状、ナキマクリン様の魔力量は“涙発動時のみ増幅”されるタイプ。

つまり、泣かないと発動しません」


 


「泣かないと……?」


 


「そして、《エモ・シャイニー》しか、まだ“泣いた記録”がございません」


 


え、泣き技、1個。


しかも、それだけ。


 


「大丈夫なんですか!? 旅、しますけど!?」


 


「大丈夫ではありません。が、あなたは“英雄”ですので」


 


「何その理屈ぅぅぅ!!」


 

*****

 


その日の夕方、訓練を終えて王宮のテラスに出ると、

ティアがベンチに座っていた。


頬杖をつきながら、夕陽に透ける髪を風に揺らして。


 


「おっ、修行終わった?」


「……一応」


 


「どうだった?」


 


「魔法、ひとつだけ覚えた。

……《エモ・シャイニー》。泣いたら使えるらしい」


 


「おぉ〜っ、それってあれじゃん。

空間を……えっと、何だっけ?心をポカポカさせるやつ?」


 


「それだけしかできないんだけどな」


 


「いいじゃん、泣けるだけでチートだって!」


 


ティアが明るく笑う。


それを見て、ちょっとだけ救われた気がした。


 


「ティアは、魔法とか使えんの?」


「うーん、ちょっとだけね。

旅用の光魔法とか、回避系のスキルは訓練受けたことあるよ。

でも、あたしの魔力って、感情が豊かすぎて“ブレる”んだって」


 


「感情が豊かすぎて……」


 


「うん。

“泣けないくせに、揺れ幅だけでかい”って、司官に怒られた〜」


 


ティアは苦笑していたけど、その目は少しだけ曇っていた。


 


「……感情がブレても、ちゃんと笑ってるじゃん。

それだけで、すげーことだと思うけどな」


 


ティアが、びっくりした顔をした。


そして、少しだけ頬を赤くして——


 


「……うん。ありがと」


 


彼女は、目を細めた。


遠くの夕焼けに手をかざして、

その光を指の間にすくおうとするように、そっと手を伸ばして。


 


「明日からだね、旅」


 


「……不安しかないけどな」


 


「大丈夫だよ。あたしがいる」


 


「……だな」


 


「……それと。あたしね」


 


風が、ふたりの間を通り抜ける。


ティアが、静かに言った。


 


「ナッキーが、涙の魔法をもっと増やせるように——

そのために、たくさん笑わせてあげる」


 


その言葉が、胸の奥に染みた。


涙が魔法になるなら。

彼女の笑顔は、俺にとっての“魔法の源”だって、そう思えた。


 

*****

 


そして、旅立ちの朝がやってきた。


王宮の門。

見送りに来てくれたのは、銀の髪に青のドレス


ルイ・ナケネーナ王女だった。


 


「ナキマクリン」


「……ん」


 


「これを、持って行って」


差し出されたのは、小さなブローチ。


中央に、水晶のような青い石が埋め込まれていた。


 


「……これは?」


「“共感石”。

私が何か感じたとき、ほんの少しだけ共鳴するわ」


 


「つまり、遠くにいても……」


 


「うん。私の心が、あなたの涙に……少しだけ届く」


 


ルイの声は、相変わらず静かだった。

でもその瞳の奥で、何かが小さくきらめいた気がした。


 


「ありがとう。……また、帰ってくるよ」


 


「ええ。……そのときは、旅の話を聞かせて」


 


ふと、横からティアがちょっとだけ顔をしかめた。


「わたしの話も、混ぜていいよね?」


 


ルイは微笑んだ。


「ええ。……ふたりで、たくさん見てきてね」


 


門が、静かに開く。


朝日が、ふたりの背中を照らす。


 


「——いこうか」


 


「うん!」


 


そして俺たちは、歩き出した。


不安もある。魔法は一個だけ。

でも、心には——ちゃんと、あったかい感情があった。


 


《エモ・シャイニー》が使えるかどうかより、

誰かの笑顔を、ちゃんと守れるかどうか。


それがきっと、旅の中で一番大事なことなんだと思う。

♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️評価や反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ