03:王国の涙と、姫の罪
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夜の王城は、まるで世界から音が消えたみたいに静かだった。
窓の外には、月がぽっかりと浮かんでいる。
その光が、王女ルイ・ナケネーナの銀色の髪に淡く反射していた。
「——泣いたのは、一度だけよ」
ぽつり、と彼女は言った。
俺の向かいに座り、薄く笑うような、でもどこか遠い目をしながら。
「その日……この国は、壊れかけたの」
俺は黙って彼女を見つめる。
ルイの声は小さかったけど、言葉の一つ一つが胸の奥に落ちてきた。
「……お母さまが、亡くなったの」
その瞬間、風が窓を揺らした。
薄いカーテンがふわりと舞い、月明かりの中でルイの表情を一瞬だけ隠した。
「私は……初めて、泣いたの。
気づいたときには、神殿の空が裂けて、封印の結界が崩れかけていたわ」
「封印……?」
「この国の感情は、“封じられて”いるの。
人が泣くことで、それが崩れる可能性があると……王たちは恐れてきたの」
「でもさ……泣くって、自然なことでしょ?」
「ええ。自然なこと。だけど、“この国にとっては”……災いなの」
ルイの目が、俺の方を静かに見つめた。
月明かりに照らされて、まるで水晶みたいに澄んでいるのに、
その中には“何も映っていない”ような、そんな透明さがあった。
「それ以来……私は、“泣けない子”として育てられたわ」
……俺は何も言えなかった。
何を言っても、彼女の過去の痛みに届かない気がして。
でもその沈黙を、ルイの方が破ってくれた。
「あなたは……なんで、泣けるの?」
「え……」
「さっき、パンを抱きしめて……あんなに泣いてた」
ちょ、それ今思い出させる!?
「いや、それは……その、初日で、腹減ってて、でも優しくされて……」
「……ふふっ」
ルイが——笑った。
ほんの少し、口元をゆるめただけ。でも確かに、笑っていた。
それは氷の姫が、月明かりの下で初めてこぼした“あたたかさ”だった。
「あなたって、変わってるのね。
この国の人たちは、泣かないことが“正義”だと思ってるのに……あなたは、泣くことを恥じない」
「だって、涙ってさ。感情ってさ。……人間じゃん」
「……人間、ね」
風がまた、部屋を通り抜けた。
さっきよりも少しだけ、やさしい音だった気がする。
「ナキマクリン」
「ん?」
「……ありがとう」
短い言葉だった。
でもその一言が、この国でどれだけ重たいものか、少しだけわかった気がした。
*****
「ナッキー〜っ!おっはよーっ!」
翌朝、城門前で待っていた俺に、
明るすぎる声が突き刺さった。
ルイ・ティアノーン。
ルイ王女の従姉妹で、俺と一緒に旅をすることになった少女だ。
「……その呼び方、定着させる気か」
「うんっ!“ナキマクリン”より絶対言いやすいもん」
彼女は、太陽の光を浴びながら、今日も全開の笑顔だった。
でも……どこか、昨日の夜のルイと重なって見えた。
「ねぇ、ナッキー。昨日、ナケ姉と……なに話してたの?」
「え?」
「ちょっとだけ……声が聞こえちゃったんだ。
“泣けない”って……姫さま、自分のことそう言ってた」
「……そうだよ。
一度、泣いたことで……王国が崩れかけたんだって」
「……うん、知ってる。わたし、あの日、ナケ姉の隣にいたから」
ティアがふっと目を伏せた。
その笑顔が、一瞬だけ揺れる。ほんの一秒だけ——
でも、俺にはそれが、なぜかすごく寂しく見えた。
「泣くことが罪って、悲しいよね」
「うん」
「……だから、ナッキー。
旅の途中でさ、もしわたしが……ほんとに泣きそうになったら、止めないでね?」
「……ああ」
「だって、いつか、泣けるようになりたいから」
そのとき。
彼女の瞳の奥で、ほんの一瞬だけ——
透明な“何か”が光った気がした。
涙じゃなかった。
でも、それは……間違いなく、感情だった。
そして、旅が始まった。
俺と、ティアと。
そして、王国に残された“泣けない姫”。
……これ、絶対フラグ立っただろ!?
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