表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

17:こぼれ落ちる一筋の光

♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️ブクマとか反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

夜の帳が、街をゆっくりと覆い始めた。


灯りの少ないレヴィネの街は、暗闇の中でもどこか美しかった。家々の窓にともる小さなランプの光が、まるで星のように瞬き、静かに沈んでゆく街の時間を照らしている。


 


レイアの案内で、俺とティアは“鐘楼”と呼ばれる建物へと向かっていた。


 


「この塔の上に、“記憶の鐘”がある」


レイアがそう言って、ゆっくりと螺旋階段を上がっていく。


 


「この鐘はね……昔、この街が“涙を流すことを許されていた”最後の夜に、鳴らされたものなの」


「……最後の夜?」


「うん。王国から“感情統制”の命令が届いた日。街の人たちは、最後にこの鐘の音を聞いて、涙を流して……それっきり、泣かなくなった」


 


ティアは、無言でその話を聞いていた。


でも、拳を握りしめているその指先が、少し震えていた。


 


「じゃあ……今も鳴るのか?」


俺が聞くと、レイアは少し微笑んだ。


「ほんの一瞬だけ、夜の真ん中に。しかも、鐘を鳴らすのは誰でもできるわけじゃない。“涙を持つ者”だけが、鐘を鳴らすことができるの」


 


「涙を……持つ者」


 


俺は、少しだけ手のひらを見つめた。


かつて、“パンの耳”に感動して泣いた手。


あのときの涙が、なぜか今も心の奥に残っているような気がしていた。


 


やがて、階段の終わりにたどり着いた。


そこには、古びた鐘が吊るされていた。


風に揺れて、金属のきしむ音が小さく鳴る。


でも、鐘そのものは——まるで、何かを“待っている”ようだった。


 


「さあ、ナッキー……やってみて」


ティアが、小さく頷いた。


 


俺は、鐘の綱に手をかける。


冷たい鉄の感触が、指に伝わってくる。


そして——


 


「……いくぞ」


 


ぐっと力を入れて、鐘の綱を引いた。


 


……ゴォォォォン……


 


重く、深く、空気を震わせるような音が、夜の街に響いた。


その瞬間。


 


ティアが、目を見開いた。


 


「……な、に……これ……」


 


街のあちこちで、淡い光が灯る。


家々の中から、広場の片隅から、そして神殿の杯から——


まるで、“記憶”が揺り起こされたかのように、光が立ち上る。


 


その光は、音と共に流れ出し、人々の心の奥に触れていく。


 


ティアの足元にも、光が流れ込んできた。


彼女の胸元にある、小さな布のお守りがふわりと揺れる。


 


「やだ……なにこれ……」


彼女の声が震えていた。


 


「……心が、ぐちゃぐちゃになってく……」


 


「ティア……!」


 


俺が駆け寄ろうとしたその瞬間。


 


ティアの頬に——


 


一筋の、涙が流れた。


 


それは、ゆっくりと、けれど確かに。


今まで流せなかった全ての想いをのせて、光の中を滑り落ちた。


 


「……やっと……泣けた……」


 


その声に、俺は言葉を失った。


ただ、そっとその肩に手を置くことしかできなかった。


 


彼女の涙が地面に落ちた瞬間——


鐘の音が、もう一度だけ鳴った。


 

──その音は、誰かの心を、そっと開く音だった。





夜が、深い沈黙をまといはじめた。


鐘の音は止み、街の光もひとつ、またひとつと落ちてゆく。


でも——俺たちの胸の中では、何かがずっと、鳴り響いていた。


 


ティアはまだ、俯いたままだった。


涙の跡が頬を伝い、光の粒となって宙に溶けていく。


それは、彼女の“最初の涙”だった。


 


「……ありがとう、ナッキー」


やがて、ぽつりとティアが口を開いた。


 


「……この街に来てよかった。鐘の音を聞けてよかった……でも、それより——」


 


そこで、彼女は言葉を飲み込んだ。


少しだけ目を伏せて、そして、微笑んだ。


 


「……私、やっと……泣ける人になれた気がするの」


 


「ティア……」


 


「今までは、怖かった。泣くことも、感情を出すことも。

“ナケネーナの従姉妹”って枠に、縛られてた。

誰かと比べられるのも、自分が選ばれないんじゃないかって思うのも——全部、怖かった」


 


俺は、そっと彼女の肩に手を置いた。


それ以上、何も言わずに。


 


「でも……ナッキーと旅して、いろんなもの見て、いろんな人と出会って、今日こうして……泣けて」


ティアは顔を上げた。


その目は、もう涙ではなく——光を宿していた。


 


「……私、ようやく“私”になれた気がするの」


 


彼女の言葉は、まるで祈りのようだった。


ひとつの願いが、ようやく叶った音だった。


 


「ありがとう。これからも、ナッキーと一緒にいたい」


そう言った瞬間、彼女の表情に、ふっと不安の影が差した。


 


「……でも、それって……ナケ姉にも言えるかな……?」


 


その問いに、俺は何も返せなかった。


いや、答えを持っていなかったのだ。


 


ティアと過ごした時間。


ナケネーナと交わした誓い。


それぞれが、本物で、嘘なんかじゃない。


 


でも、“どちらか”を選ぶ日が来るのなら——


 


「……まだ、今は選べない」


俺は正直に、そう答えた。


 


ティアは、ほんの一瞬だけ目を見開き——そして、笑った。


いつもの、無邪気な笑顔とはちがう。


静かで、優しい、少しだけ切ない笑顔だった。


 


「うん。知ってる。……それでいいの。今は、それで」


 


その夜。


俺たちは、鐘楼のてっぺんに座って、街を見下ろしていた。


 


風が優しく吹き抜ける。


静かな街に、眠るような息遣いが流れている。


 


レイアが、少し離れた場所に佇んでいた。


彼女は手の中に、小さな鈴のような石を持っていた。


それが、レヴィネの“記憶の石”だと教えてくれた。


 


「その石はね、ここで流れた涙の“記憶”を少しだけ宿すの。……よかったら、持っていって」


 


レイアが差し出したその石は、ほんのりと暖かかった。


俺とティアは、それぞれ一つずつ受け取った。


 


「ありがとう」


 


「ううん。こっちこそ……あなたたちのおかげで、また誰かが“涙”を思い出せた」


 


別れ際、ティアがレイアにそっと近づいて、何かを耳打ちした。


レイアは驚いたように目を見開いたが、やがて小さく、うなずいた。


 


神殿を後にして、街の外れの宿へと戻る道すがら、ティアが俺に言った。


 


「ねぇナッキー……次の街でも、またいろんな涙に出会えるといいね」


 


「……ああ。俺たちの旅は、まだ続くからな」


 


その背中に、確かな“光”が宿っているのを、俺は見逃さなかった。


 


——そして、俺の胸の奥にも。


ほんの少しだけ、“答え”に近づいた気がした。

♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️ブクマとか反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ