表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

11:涙を映す瞳

♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️ブクマとか反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

朝、霧がまだ渓谷の底に留まっている時間だった。


木々の隙間から差し込む薄明かりが、神涙石をやわらかく照らす。


ティアは、石を包むように両手を合わせていた。

胸元に抱きしめるようにして、何度も目を閉じては、そっと息を吐いていた。


「……眠れなかった?」


声をかけると、ティアは小さく首を振った。


「眠れたよ。でも……夢を見たの。ナケ姉のこと」


俺は黙って、隣に腰を下ろす。


まだ眠たげな焚き火の残り火が、パチ……と音を立てて木を割った。


「昔……ほんの少しだけ、ナケ姉が涙を流したことがあったの。幼いころ……私が高熱で倒れたとき」


「……王女様が?」


「うん。誰にも見られないように、カーテンの裏で……一粒だけ、泣いてくれた」


ティアの瞳が、かすかに潤む。


「その涙を、今でも覚えてるの。すっごく……あったかかった」


彼女は指先で神涙石の表面をなぞる。


「でも、それが最後だった。あの人……それからずっと、涙を閉じ込めて生きてる」


言葉にできない時間が、二人の間に流れる。


朝の光が、静かに、ティアの輪郭をなぞっていった。


「……あのときの涙が、ナケネーナにとって最後の“自由”だったのかもしれないな」


俺の言葉に、ティアは目を伏せた。


「うん。だから、今度は——私が、あの人の涙を取り戻したい」


その決意が、神涙石を優しく包み込む手に宿っていた。


焚き火の残り火に新しい薪をくべ、炎がぱっと広がる。


今日という一日に灯りがともった瞬間だった。


──まだ始まったばかりだ。けれどこの旅は、

俺たちの“涙”を少しずつ、確かに変えていく。




焚き火を片付けた頃、谷の奥から足音が近づいてきた。


「……出発の支度、できたみたいね」


声の主は、フードを外したミアだった。


陽に透ける栗色の髪が、肩先で揺れる。

淡い光に照らされた彼女の表情は、前夜よりも少しだけやわらかく見えた。


「ありがとう、いろいろ……」


ティアがそっと頭を下げた。


ミアは小さく頷くと、ティアの胸元に目をやる。


「神涙石……その石は、きっと誰かの扉を開く鍵になる」


「扉……?」


「心のね」


ミアは小さな木箱を取り出し、ティアの手にそっと渡した。


「これ、私の妹が……触れてしまった結晶の欠片。もう役には立たないけど、形見として持っててほしい」


ティアは驚いたようにその箱を受け取る。


中には、ほんの指先ほどの透明な結晶が、静かに横たわっていた。


「ありがとう……でも、いいの?」


「うん。きっと、あなたになら託せるって思えたから」


ミアの瞳に、一瞬、涙が浮かんだ気がした。


けれどそれはすぐに光にかき消される。


「……この渓谷にはね、もう一つ伝承があるの」


ミアがぽつりと呟いた。


「“感情の結晶が咲いた夜、空から涙が降る”……って」


俺とティアは、思わず空を見上げた。雲ひとつない蒼。


「それって……何かの兆し?」


「さあ、どうだろうね。でも、何かが始まるときって、空気が静かになりすぎるものなの」


ミアの言葉は、不思議と胸の奥に残った。


「……気をつけてね、ティア。それと……ナキマクリン」


「ん?」


「“涙が全てを救うとは限らない”ってこと、忘れないで」


それだけ言うと、ミアはくるりと背を向け、谷の奥へと歩き出す。


その背中は、どこか凛としていて、痛みすら受け入れてきたような強さを感じさせた。


──何かを背負い続ける人の、優しい背中だった。


ティアが小さく呟いた。


「……あの人、きっと、自分の感情もどこかに封じてるんだろうね」


「……俺たちと、似てるのかもな」


「うん。でも……そういう人の涙こそ、一番綺麗だって、思う」


俺はその言葉に、何も返せなかった。


けれど、心の奥で何かが小さく灯った気がした。


それは、優しさとも、祈りともつかない——

まだ名前のない感情だった。




「……ナッキー。さっきの、ミアの言葉……」


ティアが、揺れる馬車の中でつぶやいた。


「“涙がすべてを救うとは限らない”……って、どう思う?」


午前の光が揺れる帷幕の隙間から差し込み、ティアの横顔に微かな影を落とす。


「……正直、まだわからない。俺も……この世界で、涙に何ができるのか、何ができないのか、ちゃんと掴めてるわけじゃないし」


「でも……ナッキーってさ、泣けるじゃん?」


「まぁ……そうだな。気づいたら泣いてる時あるしな……パンの耳とかで」


「それなっ!思い出しただけで笑うってば~!」


笑いながら、ティアの肩が震えた。


「でも、羨ましいって……やっぱ思うよ」


「……涙を流せることが?」


「うん。なんか……私って、どこかで“感情に失礼”な生き方してる気がしてさ」


「感情に……失礼?」


「だって、痛いとか悲しいとか、ちゃんと“感じてる”のに、それが“涙”になって出てきてくれないのってさ……」


彼女は手を胸に当てて、ゆっくりと息を吸った。


「まるで……心のどっかに“出口”が無いみたいで、感情が渋滞してる感じ」


馬車の車輪がコツン、と石を踏む音。


「たぶんね……涙って“心の呼吸”みたいなもんなんじゃないかな」


「……呼吸?」


「うん。笑うのが“吸う”だとしたら、泣くのは“吐く”」


ティアはそう言って、自分の指を見つめる。


「……わたし、きっとずっと、息を吐けてなかったんだと思う」


その言葉が、じんわりと胸に沁みた。


「でも……だから今、こうして旅してるのかもね」


「え?」


「ナッキーって、“泣く”ことで、誰かの呼吸を手伝える人じゃん」


ティアの声は、穏やかなのに、どこか“真ん中”を突いてくる。


「私のぶんの“吐く”も……ナッキーが手伝ってくれる気がするんだ」


「……おい、そんなこと言ってると、また泣くぞ?」


「それはズルいってば!」


二人で顔を見合わせて、笑い合う。


でも——その笑顔の奥に、

それぞれが“誰にも見せられなかった涙”を、少しだけ感じ取っていた。


馬車の窓から、遠くに広がる地平線。


その向こうにあるのは、まだ知らない感情か、それとも誰かの記憶か。


──この旅が終わるころ、

ティアは泣けるようになっているんだろうか。


そして俺は——

誰の涙を、一番に受け止めたいって、思うんだろうか。


♦️ストックあるので、毎日20時に更新していきますね♦️

♦️☺️ブクマとか反応、多いほど日々の更新加速します✍️♦️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ