転生した世界では、涙を流せる人間が“英雄”だった

異世界に転生した青年・ウル・ナキマクリン。
しかし彼に与えられた“力”は、チートスキルでも魔法でもなかった。

「涙を流せる」という、ただそれだけ。

この世界では、長きにわたる戦乱と混沌の果てに、人々は感情を失い、“涙”を流すことが忌避されていた。
けれどその涙こそが、癒し、浄化し、失われた記憶を蘇らせる“神の奇跡”の鍵だった。

王都で出会ったのは、涙を封じられた王女・ルイ・ナケネーナ。
感情を失った彼女は、ナキマクリンの涙に希望を見出し、心を少しずつ取り戻していく。
だが彼女は、王国という檻の中で、静かに自分の感情を閉じ込めたまま生きている。

そして、旅路を共にするのは、王女の従姉妹・ルイ・ティアノーン。
笑顔がまぶしく、天真爛漫に見える彼女もまた、涙を流せない一人。
けれどその奥には、誰よりも深く、誰よりも繊細な想いが隠されていた。

涙を使うことで人々の感情を解き放ち、世界に癒しをもたらすナキマクリン。
王女ナケネーナと、従姉妹ティアノーン——
ふたりの少女との“涙では語れない三角関係”が、静かに、切なく、物語を動かしていく。

「涙は、弱さなんかじゃない。
　それは、心がまだ生きている証なんだ——」

失われた感情の世界で、“涙の英雄”は、愛と奇跡の旅を始める。