第2話「救いの手は影より」
牢の扉が、静かに開いた。
軋む音とともに、冷たい空気が流れ込む。
目の前に立っていたのは、漆黒の外套を纏った二人の男。
一人は鋭い眼差しを持つ青年。もう一人は、少し柔和な雰囲気をまとった男だった。
「……あなたたちは?」
ルシェリアは、警戒を隠さずに問うた。
すると、黒髪の青年が冷静な声で答えた。
「レオン・ヴァルツ。革命派の者だ」
もう一人の男が小さく微笑む。
「俺はジーク。とりあえず、王女様を助けに来たってわけさ」
ルシェリアの目がわずかに見開かれる。
革命派——貴族社会の腐敗に抗い、影で活動する者たち。
だが、彼らが王女である自分を助けに来る理由は?
「……どうして私を?」
レオンは迷うことなく答えた。
「ここにいれば、お前は近いうちに処刑される」
「それは……分かっているわ」
「なら、選べ。生きたいなら、俺たちと来い」
レオンは手を差し出した。
ルシェリアは、その手をじっと見つめる。
王宮では誰も助けてくれなかった。
国王である父も、兄も、自分を見捨てた。
(私は……生きたいの?)
迷いを抱えながらも、ルシェリアはそっとその手を取った。
「いい選択だ」
レオンが微かに笑う。
ジークは陽気な調子で肩をすくめた。
「お姫様をエスコートするのも悪くないな」
だが、その瞬間——
「牢の鍵が開いているぞ! 王女が逃げた!」
廊下の向こうから、衛兵の怒号が響いた。
「ちっ、早すぎる!」
レオンが舌打ちし、剣を抜く。
「行くぞ、ルシェリア!」
ジークも短剣を抜き、軽やかに前へ出る。
ルシェリアは二人に導かれるように走り出した。
暗い石造りの廊下を抜けながら、彼女の胸には一つの疑問が渦巻いていた。
——革命派が、なぜ私を助けるの?
——第3話へ続く。