表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第1話「囚われの王女」

 石造りの牢獄は冷え切っていた。

 湿った空気が肌を刺し、かすかな月明かりが粗末な寝台と鉄格子を照らしている。


 ルシェリア・アストリアは壁にもたれながら、小さく息をついた。

 かつて誇り高き王女と呼ばれた彼女の姿は、今や見る影もない。

 豪奢だったドレスは血と埃にまみれ、銀糸の刺繍も剥げ落ちていた。


 「……死ぬの?」


 思わず、震える声が漏れる。

 王族の身でありながら反逆罪に問われた彼女に、明日の朝日を見る未来はない。

 今頃、兄王は処刑の準備を進めていることだろう。


 「……違う」


 ルシェリアはゆっくりと目を閉じ、指先に力を込めた。

 死ぬわけにはいかない。


 彼女はアストリア王国の王女であり、亡き母が遺した王家の誇りを背負う者。

 そして——


 (私を陥れた者を、ただで終わらせるつもりはない)


 冷たい牢の中で、かすかに目が光る。

 その瞬間——


 カチャリ、と微かな音が響いた。


 鉄格子の向こう、闇の中から二つの影が現れる。

 漆黒の外套を纏い、顔の半分を隠した男たち。


 「……ルシェリア王女だな?」


 低く響く声に、ルシェリアは身をこわばらせた。


 「……あなたたちは?」


 一人は黒髪の青年。精悍な顔立ちと鋭い眼差しを持つ男だ。

 もう一人は金髪混じりの茶髪で、やや軽やかな雰囲気を漂わせている。


 「革命派の者だ」


 黒髪の男が短く答える。


 「……革命派?」


 ルシェリアの中に警戒が走る。

 革命派とは、王国の腐敗に抗い影で活動する反体制派の集団。

 だが、彼らが王族である自分を助けに来る理由が分からない。


 「王女様を迎えに参りましたよ」


 もう一人の男——ジークが、軽く微笑む。


 「お前はこのままでは処刑される。生きたいなら、俺たちと来い」


 レオンが冷静に言い放つ。


 ルシェリアは彼の手元に目をやる。

 鍵が光を反射しながら、錆びついた鉄格子の鍵穴へと差し込まれた。


 「選べ、ルシェリア・アストリア」


 乾いた音を立てて、牢の扉が開く。


 彼女の運命が、大きく動き出そうとしていた——。


——第2話へ続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ