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ORDEAL OF AIR  作者: 伊阪証
7/7

認知的不協和及びデウス・エクス・マキナ

今回はOOA前日譚、次回はバッドエンドルートです。

あの日、自分の心臓は半分を差し出した。

彼女の身を守る為に。

ほんの少し、迷っただけだ。

彼女に一秒でも多く注目されたかった、それだけだ。

自分に心得はない、心しかない。

無様と笑ってくれ、長生きなんて出来ないのだから。


自分には野望がある、夢がある。

それ即ち、商社マンである。

数学と社会を磨き、英語も伸ばす。

経済学部を目指し、そこでマーケティングにも手を出し、営業能力を身に付ける。そして、その果てに旅をする。

具体的な物、それぞれに目的や指針を用意して試している所だ。

・・・だが、それを許さないある欠点がある。

「義一!起きているか!?」

その教師は怒りをぶつけているのではない、心配を催しているのだ。

・・・自分は、心臓が酷く脆い。気温、エネルギー量、血圧・・・様々な状況で心停止とまでは行かずとも身体が酸素不足になる。貧血と同じ仕組みで悪化し、即座に酸欠になるのだ。

それを支えるのが・・・。

青空星奈、告白され過ぎる女、回転寿司が如く捌いていく見事な手腕の女だ。・・・そして、自分が馬鹿な事をしているから生きていた女だ。

「・・・大丈夫?」

「・・・ああ。」

誰かに心臓の鼓動を押し当ててもらい、生き延びる。

半分が潰れた心臓に一番相性が良いのは彼女だ。誰でも出来るは出来るが、彼女との相性は別格だ。

この心臓は脆い、だが、彼女さえいれば多少の距離は問題無い。

家に帰れば家族の心臓を借り、生き延びる。

不便だが、星奈が死ななくて良かった。


私は、青空星奈。昔から人に好かれた。

ある時、それが理由で銃により撃たれた筈だった。

殺意が篭もりすぎた高速弾は、彼では受け止め切れずに私の心臓に刺さった。

しかし、浅かったから多少傷があるだけで、別の心臓に交換して事なきを得た。

・・・その時、研究者に依頼され、手術費用の免除の代わりに特殊な心臓を渡すと契約した。・・・最初は何の為か分からなかったが、すぐに彼の心臓が半分無くなり、それを支える為に私がいると把握した。私ではなく、彼の為だ。彼には合わなかったらしいが・・・その辺は考えなかった。一緒にいる理由になるから、運命めいた何かだと信じた。

・・・ずっと接触している内に、一時期は一緒に寝たし、一緒にお風呂に入った。

優しいけど無謀、普通優しい人は自分にも甘いから物足りないけど、彼は違う。

私の気分の善し悪しを問わず、受け止めては、脆い心臓を必死に動かして、同じ様に振舞ってくれる。

可愛いのに、上に立っている様な感じがする。

まぁ、取り敢えず私が彼が好きだという事に変わりはない。それはあの日からではない、一緒に居たからかもしれない。・・・分からないけど。


その心臓は、煌めく様に鼓動する。

波が通り過ぎる様に上から下へ、跳ねる様に。

ゆっくりとしているのに、激しさを宿す。

彼に愛はあるが、恋を向けてはいない。自然の摂理を砕く様な、証明し難いあの感情ではない。

それが不思議だった。

溜息は安堵の印、そして、それと同時に、自分にとっての春風であった。


邪神に関してを調べる本が急速に増えた。それも大半が表に出ず、しかし本棚一つを占領しているから多いと言って差し支えない。ホラーコーナーが増えた様なものだ、先ず小中高が一括りになった特殊な図書室、一つ分も大した数ではない。

夜の陽射しが遠くより届く。自分は背後で寝惚けた星奈ではなく、不思議と彼女と同じ気配を宿す女に声を掛けた。

星奈に似ている様で違う。見覚えはないが、目を逸らせない。怯えではない、美貌に惚れそうだった。

「・・・ねぇ・・・って。」

星奈は迷いと直進から入れ替わり、逆の事をぶつけようと近寄る。

一悶着は置いておき、去った後に話し出す。

「あの女、多分邪神という奴じゃないか?」

「え?じゃあなんで?というか昔からそういうの信じるタイプだよね。」

「こんな身体だぞ、信じない訳がない。」

騎士と姫、そして妖怪の話。

「人魚はセイレーンを由来とする空想上の生物だ。」

「それがどうかしたの?」

「ギリシャで始まったこれだが、自分はその背景をフェニキア人への憧れか、船上で精神的に堪えた人間が編み出した妄想だと推測する。」

「・・・妄想が脈々と続いてるね。」

「人間は海路の強さを証明する象徴だと言える訳だ。しかしベルゼブブという悪魔を異邦の神バアルを侮辱する為に作り上げた様に、あの時代のあの場所はあまりにの侮辱が多かった。邪神になるのが人を発端にしたものであるなら、この邪神はきっと露悪的なものになるだろうと思う。」

「(さっきの子にそう感じたのかな・・・。)」

「それは人の責任であり、人の咎だ。」

それはつまり、人の手でどうにか出来る範囲の問題であると。

「もし、この馬鹿みたいな話が事実だったら、君は僕についてきてくれるか?」

悪しきは愚か故、また、その善悪は一般的価値観と同じものではない。悪とは、その後の人類がそれ以上に賢く、倫理的であった時に正しき一般となる。

「着いて行かなきゃダメでしょ?悪いとも嫌だとも思ってないから安心しなさいな。」

その歴史は無い、だから自分の選択は読めやしない。

・・・そして、自分はその一つの本を持ち帰らずに記憶に刻んだ。

・・・この心臓を治し、彼女を解放出来る本についてだ。



この学校で一番人気の教師といえば、若手ながらも世界史主任を務める渥美佐一・・・という人物だ。

ある悩める女生徒は言った。

「昔、道徳の授業で納得出来ない事がありました。」

と、それに対して彼はこう答えた。

「納得出来なかったなら、それは予想通りも結果だ。」

「どうしてですか?」

「その問題を君が技術的に解決する可能性があるからだ。例えば電車の席を譲る話なら、『こうすればもっと席の数を増やせる・こう作れば電車のサイズを増やせる』と、君は納得せず、その問題が起きない様にするだろう。そうすれば、人は悩まなくなり、一々教育しなくても良くなる。」

「私なんかに?」

「設計者は一人でもいれば十分だ、今いる小中学生から一人でもこれを行えば良い、それが最終的に全国に及ぶ・・・これが道徳の授業の本質だ。」

理屈に則り、納得出来る理由を教える。

世の中は正しくないが、彼が支持しているなら正しい。そう考えて後を追う人も少なくない。

それは同じ教師とは限らない。

「研究職になっちゃった人も多い、後輩作りの背中を押してやりたいのさ。」

「は?他に女がいるんですか?」

「違いますー!大体居るわけねぇだろ俺に。」

「先生はなんか・・・配偶者の愚痴言われてるのが似合いますよ。」

「貴様ー!多数派筆頭がよー!!」

・・・と、人気な理由がよく分かる。

普段はこんな理屈的なのに、自殺を止める時は有り得ない程口下手になって・・・それでも気を引いて防げる。

優秀でもあるが、それ以上に愛される。

不思議な人なのだ。

この頃、海の向こうで内乱や戦争が起き、転校した生徒が増えた。かなり多い影響で名前も覚え切れていない。学校が学校だからだろう。全世界7%だし。


結局、邪神とは何か。

スタンダードに考えるなら、人類の道徳観が生み出した正に負の産物だろう。

しかしそれではつまらないと思い、別の答えを出した。

それが邪神=妖怪説である。

邪神は見ると発狂するが、一部なら問題ないらしい。その一部として見ているのが妖怪だという仮説だ。眷属等もその様な特徴が一致している。・・・よって邪神は丁寧に隠されたものであると言える。

「・・・妖怪も観測されている範囲で言えば、地上が圧倒的に多く、同時に動物に類似、或いはその派生の傾向にある。」

取り敢えず探すなら海より山、山中他界と言うし、乗馬の上手いイタコ芸人も定期的に成分補給をしているそうだ。

「山だ!山に行くぞ!」

「ヤダ。センスの無いデートじゃないんだからさ。」

「じゃあ妥協して今日は喫茶店に留めよう。」

「どういう基準でそれ選んでるのねぇ。」

「そういう心理学的な効果があるからやっただけだ。」

「どうして濁すの?」

「数少ないアドバンテージを譲ったらお前は絶対に使いこなすという確信があるだけだ。」

・・・少し悩む、邪神の存在について・・・。

思い返してみれば、自分のではなく彼女の心臓が変えられた、これは恐らく拒絶反応を考慮したものだ。何故自分には別の心臓を埋め込んだ、何故生かした、そして、なぜ戻さないのか。自分の心臓は変えられないのか?不便極まりない。彼女と一緒という恩恵があるから文句は無いが、文句を抜いたら疑問は多い。


神話は二種類存在する、多神か単神か、後者が人間的な傾向が強く、つまり分かりやすいし身近だ、そして国境内での揉め事に強い。前者は各地に神がいて、それが統一されて出来上がる・・・国境を越えた状態に強い。その為災害の数や、土地の品質だけで大きく変わる。

それをグローバリゼーションに持ち込むなら、邪神は信仰の集まる・・・災害の地に集結する。

廃神社もそれなりに多く、邪神の住処に最適だ。

それだと思っていたが、神すらも食らい迷わせる妖怪がいるという話を聞いた。・・・妖怪は邪神を防ぐ為に残されたのではないか?とも思う。

取り敢えず、日本国内は怪しい。邪神は強大な力があるが、信仰に縛られる存在も多い。

何より、多分他国だったら邪神だとか言ったら普通に火炎放射器とか持ち込まれるだろう。

「・・・仮に邪神がいるとしたら、その心臓が狙われる可能性が高い。」

「確かにね。宗教の信者を揃えるには最適な力だ。」

彼等は知らない、有名な邪神も、無名の邪神もこの世界には存在する。その中で見れるのは知名度の高さがある一握りだけ・・・未知に備える事は出来ない。

「・・・喫茶店と山は、それぞれ監視の目を掻い潜るのに最適だった。」

「まさに攻殻機動隊って感じね、客全員を協力者にして阻止する。」

「よし、全員情報を提出しろ。」

・・・山であれば機械的仕掛けが難しく、喫茶店にはそんな金は無い。その為他校から奢る事を条件に図書館の情報を収拾、自分達の箇所だけ異様な事を確かにした。これは彼女の交友関係あってこそだ。

「やはり異常だった、恐らく学校内に邪神がいる。」

「学校内の予算資料のシュレッダー後の資料から探したよ。あの本は全てカウントされてなかった。」

「外部組織への通報だ、出来るなら公安や連邦捜査局が良い。」

「それなら電子決済はどう?」

「電子決済?」

「電子決済のプロフィールは滅多に見られないし、そこに『予算から不明な書籍による反政治的活動を進め、脱税疑惑がある。』と書き込んでニトログリセリンの材料を大量に買い、調査の過程で気付かせる。」

「・・・よし、それで行く。」

彼等二人は動き出した、学校を暗に告発し、邪神に対抗する勢力を作る。そして、数日間は薬局と花火製造業者の元を回り続ける事になった。



この学校の生徒会長と言えば誰か・・・恐らく、名前を聞けば『あぁ、コイツだな』と分かる。

平等院暁音、自分の腹違いの姉であり、父の浮気相手の子である自分とは違う・・・が、嫌ったりはせず、寧ろ申し訳ないと思って優しくされる。

星奈と暁音は異常に仲が悪い、どちらも世界史・日本史に強く、全国の順位で争っている位だが・・・先ず、支持も違えば意見も違う、ディベートが修羅場になる。淡々としないのだ。その余波で自分は血が回り過ぎて吐いたりする。

もう一つ言うと、自分の姓は坂、坂義一である。


実は、生徒会長以外にも勢力はある。第三勢力の代表こそ青空星奈だが、第二勢力・・・言うなれば野党勢力として存在するのがこの高飛車。

「失礼。」

「よろしくてよ、義一。」

「誰?」

「扇谷僥倖、自分と星奈の雇用主だ。」

もし星奈がいなければ彼女に恋していたであろう。言わずもがな、彼女は善人、特技は確定申告、嫌いなものは請求書、計算速度や情報のエキスパートである。

「金持ちとしても有名だな。」

「え?どこの?」

「多分知ってる、B2Bの中でも最大手、建築、自動車、電子機器に半導体、そして原子力発電所を手掛ける『綴屋技研』の・・・。」

「社長?」

「いや、中間管理職。」

「言い方が微妙なだけでもっと凄いのよね!?」

「本人がネタにしてる位だからな。」

彼女は特殊な体質で、血液型による拒絶反応が起きない上で、免疫はしっかりと機能している。また、心臓の25%は彼女のものらしいが、あまり覚えがないから気にするなと言う・・・人格としては、かなり善性の塊みたいな人間だ。

「・・・まぁ、色々紹介してくれてありがと。」

「だってさ、照れるのが他人依存だから全然変わらないね。頑張って探してね。」

「(コイツ結構畜生だな。)」

さて、最近はいつの間にか入ってきた生徒が多い、というのも宗教系な上規模も大きく、移籍する事もまちまち。

その移籍の理由が、邪神に関わっていた。

・・・というのも、開祖の一人は過去に邪神との接触を繰り返し、撃退を成功させ、その手法としてフィリピン爆竹を広めた。

その中でも注目すべきはノーデンス、知名度が高く、救助された事もあったと。

仮にあるならば今の所接触すべきはノーデンスやヴォルヴァドスといった人側の邪神である。

「このノーデンスというのは割と有名らしいな。」

「ケルト神話の系譜だね、邪神扱いな事が衝撃だけど。」

「フィリピン爆竹からしたらどの神にせよ邪道なんだろう。」

ノーデンスを探すにしても、いるだろうか。

「噛んでいそうなのがニャルラトホテプだとして、ノーデンスはどう関与するか次第だ。」

例えばドリームランズに関してで協力している可能性もあれば、敵対しつつ関与しない方針か、ただ一つ言えるのは、ノーデンスは教師側で、ニャルラトホテプは生徒側、その方が都合が良いと判断する筈だ。

正気かどうかが問われる中で、渥美佐一が信頼され過ぎるが故に教師は信用が下がり、掌握が難しい。混沌の為に隅々まで動かすか、守る為に最低限スムーズに動くか。互いが互いを牽制出来る立場になるべく別々の役職とその相性に合わせた配置になった筈だ。

「星奈、経験則的には?」

「目星はあるけど多分そっちの方が信頼出来る。」

「・・・そうか。」

上に立てていない、つい最近加わった人物か、人格が入れ替わった様な人物。化身という概念の影響で既に人が紛れ込んでいる可能性もある。



物語は止まる様に動き出す。

詰まるからこそ面白い。

「ただいま、姉さん。」

姉は、病床に伏している。

姉の名は坂無二。

自分の心臓が半分消し飛んだのは幸運だった。

彼女は十五歳年の差があり、親が蒸発して以来働き続け・・・その結果、意識も壊れている。

「・・・。」

自分は平等院が許せない、姉を見捨て、姉を壊す経済システムを作り、姉を見捨てる政治システムを作った。

暁音を下ろし、そこからボロを出すまで暁音を人質にする。そして邪神の一連の責任を押し付け、あの父親を殺す。

その為に心臓は必要だ、星奈は巻き込みたくない。

自分は彼女の手に加えて、自治体は見逃していると記録し、終わらせる準備を済ませていた。

そして、その中であるものを手に入れた。

核の血、原子力に汚染されてなお生存する血である・・・正確には、クトゥグアの血。自分には分からない。原子力で完全に危険物となった物質である。そしてこれは彼が敵対する神性を消す為に作り、ニャルラトホテプはこれを危険視し逃げた。

正確には「耐えれるが他者を巻き込み過ぎる」

その為抑制が出来る状態で戻る必要がある。


そして、一つ答えを提示しておこう。

無二は邪神に呪われ、石化している。

解呪方法は無い。しかし生きている。

石化と言っても石灰の様に、白く結晶の様になっている。

そして、心当たりはある。

その邪神を、人はガタノソアと呼ぶ。



日の元に世界を探る。その日は赤く眩しい。

「人を見た目で判断するな」

この言葉には裏がある。

この言葉の全文は「人を見た目で判断するならその人間の特性や特徴を全て抽出、そして外見から推定出来ない要素を挙動から判断し、その上で判断して構わないと支持出来る理由を満たせた場合、漸く判断して良い。」

人は善性を扱える程優秀な個体が滅多に出現しない。また、善性は悪を許す心も必要で、正義ではない。

そして、今や悪は増えた。

今やイングランドではでは人口15%の知力と嘗て産業革命の時代で従事していた労働者が同じという話がある。そしてこの本は知力に欠ける人間にとっては忌まわしきものであり、その結果メディアを用いた袋叩きとなった。その為この本は外国人作家のものなのだが、英訳されていない。

他の欧州で行って例外になるのは妥協してスペインとスイス、オランダにベルギー位か、少なくともイギリスを真似た罵倒をする割には本質を何か理解していないフランスとドイツには無理だ。唯一確実な例外はベラルーシか。

悪だ、悪夢だ。

人は邪神へと落ちれる。

他生物の恐怖の象徴だが、懐けば恩恵があることもあれば、惨殺される事も、出来るだけ苦しまず殺す事も、剰え食らう為にそうする事もある。

人は邪神と言って十分な素養がある。

人は邪神と罵って足りる要素がある。

そして、その上で「人を見た目で判断するな」

つまり、最終的に悪しかいなくなる。

人は見た目で判断した所で無意味になる。

それなら悪と分かっている上で、最低限法を守ったり、多少騒ぎを起こす程度の外見の良い人間の方が良い。故に、ルッキズムは人間の社会的性格であろう。

まぁどちらにせよハズレくじは入っている。

これが生徒会長として危惧している事だ。

自分は全てを支配出来る訳ではない、あくまで民主政である。

・・・だから、義一を守らなければいけない。

・・・だから義一を助けなければいけない。

あの父親は、浮気という問題があったから捨てたのではない、彼が男だったから、そして秀でた外見にならないから捨てた。

そして私は、彼を助ける。

彼を助ける事が一番の救いだ。

人の命の不平等は、良心によって是正される。

資本主義は確かに人を豊かにしたが、国別、国内の格差を見ずに言っただけのまやかしである。

人は知性が貧弱だったが為に共産主義を扱えず、人は知性が脆弱だったが為に資本主義で世界を壊した。

その結果が、確かな存在である邪神の利用だった。

邪神を利用し、人は神の勢力争いによる資本主義・共産主義の理想を実現する。

そこに平等性も光もない。確実に破綻する生の中で、彼等は選択を強いられる。



友利恒星は観察を続けた。

人の遺伝子は何一つ変わっていない・・・それは昔からの出来事だったのだろう。

「邪神の争いを地球という特殊な環境下で行う。」

酸素が大量に存在し、生命数が圧倒的に多く、個体値を何度も調整・ランダム生成する事で強固にしていく。神よりもサイクルが早い。

・・・ならば、邪神の価値は地球上で証明する、人類という第三者を用いて争う。

正直、コピペなら分かるがそれ以外は分からない。

「だが、俺自身はそれを認めていない。」

彼は、実力不足の己を信じなかった。

信頼を築き、安定させてから腐敗する様に仕向ける。

世界はそうやって進んでいる。

金持ちが世界を支配する方法。

それはあらゆる場所にひそませる事だ。

遺伝による対処、それでも突然変異には対抗出来ない。その場合は買収するか、買収出来ないなら情報量と実力差、或いは殺害によって超える。

学校という信用を積み重ねた施設を、人類は否定出来ない。

学術論文という人が積み上げた叡智が既に腐敗していたとしても、人類は戻れない。

腐敗と効率化は同時に進み、王朝交代も政権交代も、一から作り直す事はない。


だが、妖怪が存在するからこそ、自分は思う。

「これは人間の亡霊ではないか。」

そして、その正体は・・・。

人類の情報化媒体、そしてそれに基いた精神的圧迫。


その目的に気付いた時、認知的不協和の苦しみに襲われた。

彼はその正体を知った、そして、笑わなかった。



ニャルラトホテプがあの学校に戻れる条件は二つだ、外部の人間が調査で侵入した場合、クトゥグアは関与を控えるだろう。その為侵入が可能になる。

次に他の邪神が攻撃行動を起こしていない場合。邪神の暴走は周囲を巻き込みやすい。自分が制御下から外れた場合計画が破綻する。

どんな混沌も、秩序が無ければ意味が無い。

その中で、一通の連絡が届く。

生徒会長が重体と聞き、有無を言わず戻る。

彼女は不味い、彼女はこの学校の資金源の一人、邪神の関しての拡散を行ったのもその資金あってこそ。

自分は複合的に邪神を利用する事でロケット発射台を奪い、アザトースに到達する。・・・それにおいては、クトゥグアが邪魔になり過ぎるのだ。

確実に生徒は狂気に当てられ、着々と危険な状態にある。信仰と恩恵による精神強化は難しい。信仰を下手に広めれば感知され、広めなければ制御は出来ない。

信仰は死んでも継続する。死んだという事実は変わらず「その人間が死んだという体」で信仰され、死が確定する。

信仰は、嘗て宿った人の性質も混ざり、次の人へ託される。

生贄、信仰を支える生贄・・・そして。

生き続ける贄、それを人は生贄と呼ぶ。

神の一部として、或いは、神の利用として。

時代は巡る、神は巡る。

さて、そこで質問しよう。

人に身体がなく、情報がその根だとすれば・・・人は何は死をどう受け止める?

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