七月十一日 月曜日
七月十一日 月曜日
学校にいる間、千冬はいつも通りだった。柊人は対角線上にいる千冬の後ろ姿を眺めた。来週には、このクラスに彼女の姿は無い。そう思うと、この瞬間がひどく貴重なものに思えた。
「柊人、お前もついに気づいたか。板垣の美貌に」
突然肩が重くなり、隣を見ると秋元大輝が柊人の肩に腕を回していた。こんがりと日焼けした肌とは対照的な白い歯がニヤリとした口角から見える。
「そういうのじゃないよ」
「でも残念ながら、板垣には彼氏がいるから。諦めな」
柊人の否定の言葉に耳も貸さず、大輝は一人で語り始めた。
千冬の彼氏は柊人でも知っていた。谷原智也。容姿は整っているし、頭もよい。おまけに運動神経抜群だ。女子が憧れる男の象徴だろう。
「谷原には柊人も敵わないよ」
同情するかのように肩を叩かれ、柊人はため息をついた。
「だから、違う」
大輝の耳には柊人の言葉が届いていなかった。
違うに決まっている。そう心の中で繰り返し、頷いた。
「今日の授業は死亡日について扱います。配ったプリントを見てください」
養護教諭の女性は黒板に「死亡日開示」と書き記した。筆圧が強いのか、黒板は大きく揺れ、削れたチョークの粉は雪のように舞った。
「まずは、死亡日の扱いについてです。死亡日は立派な個人情報です。死亡日を人に伝えるときは慎重に判断しましょう。はい、プリントに書いて」
柊人はシャーペンを持った。穴埋め式のプリントは個人情報、が穴埋めになっていた。
「では皆さんに質問です。死亡日が近づくときの適切な行動とは何でしょう」
養護教諭の質問に、誰も反応しなかった。そんなクラスの様子に、養護教諭はため息をついた。
「死亡日に関することは皆さん避けたい問題でしょうけど、生きている限り、死は付きまといます。その死に関する授業なんです。積極的に」
しかし、状況は変わらなかった。
「適切な行動とは、いつも通りの行動をすることです。死亡日は避けることができませんから」
結局、諦めた養護教諭が説明し、その言葉を柊人はプリントに文字を書き加えた。何となく、千冬を見てみると彼女は柊人を見てドヤ顔をした。どういう意味だよ、と頬を緩めると千冬もニシシ、と笑った。
扇風機の音だけが、教室中に聞こえていた。
「先生、死亡日よりも前に自殺したらどうなるんですか?」
生徒の質問に、黒板に文字を書いていた養護教諭はチョークを置いて振り返った。
「死亡日以外に死亡することはあり得ません。死亡日以前に自殺をしようとしても、死にません。皆さんの行動すべて、人工知能が予測し、死亡日が出ています。その人が自殺を試みることも含めてです」
「それじゃあ、操られてるみたいじゃないですか」
誰かが気持ち悪、という言葉を吐き捨てた。
「それは人によってどう感じるかです」
柊人は自分の手のひらを見つめた。