七月二十六日 火曜日
七月二十六日火曜日
カウンセリング室で待っていると、矢島永太が矢島玲美を抱いて入ってきた。その後ろに矢島玲子がいる。
「お久しぶりです」
菜奈が言うと二人は軽く頭を下げた。
「どうぞ。お掛けになってください」
椅子に座ると菜奈は書類を見た。
「七月十二日からしばらく経ちましたが、心境の変化はありましたか」
「自殺をしようとしました。でも、死ねませんでした」
矢島玲子は細い声で答えた。
「少し、私の話を聞いてもらえませんか?」
菜奈は眉を下げて訊いた。矢島永太は少し驚いた表情を浮かべ、頷いた。矢島玲子に視線を移すと、彼女も頷いた。
「私は、両親と弟の四人家族でした。十四歳差の弟だったんで、本当にかわいかったんです。私は、高校卒業後すぐに死亡日宣告人になりました。それで、実家には一年に二度帰るか帰らないかくらいだったんです。でも、弟の六歳の誕生日は帰ったんです。私が家に帰ったときには両親は弟の死亡日カードを受け取りに行っていました。弟と待っていたら、電話が鳴って両親が交通事故で危篤だと知らされたんです。急いで弟と病院に駆けつけましたが、日を跨いですぐ亡くなりました。でも、弟と暮らすことになって私は二人の死から乗り越えられました。八年と少し、弟と二人で生きてきました。けれど、七月十七日に、強盗殺人犯に殺されました。弟の死亡日カードは燃えてしまって、誰も知りませんでした。だから、私はその日、顔も合わせなかったんです。前日に喧嘩して、謝ることもできませんでした。弟が死んで、もう無理かもって思ったんです。そんなときに、こんな思いは絶対に経験したくないって思いました。私、弟の死亡日を知ってたら、もっと、違う時間の過ごし方をできたと思うんです。まだ、玲子さんには時間があります。三人で過ごす今を大切にしてくれませんか?」
ズボンを握りしめた。
「時間は限られているんです。みなさんが、一緒にいられる時間も」
矢島玲子の瞳から、一筋の涙が流れた。
菜奈が窓の外を眺めると雲はオレンジ色に染まっていた。
読んでくださり、ありがとうございました。もし、自分が死ぬ日が分かっていたらきっと人生は大きく変わるだろうなぁ、というのが初めの案でした。少しでも、楽しんでくれていたら嬉しいです。
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