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噂のキマシタワーねっ!!

 ルーナは結局付き添いの二人と一緒に二限目から教室に戻ることになった。


「あっ……でも次の授業、魔法実技ですが大丈夫ですか?」


 ミアの言葉でルーナは首を傾げる。確かに過呼吸で体力は減ってしまったが、魔法を使う分にはあまり支障がないはずだ。

 人は皆大なり小なりの魔力を持つ。それを練り上げることで魔法として発揮出来る訳だが、その内容はまさに千差万別。親子や兄弟ですら使える魔法が違っていたりするので完全に生まれつきの個性とも言える。そしてルーナの魔法というと。


「問題ありませんわ。私の場合ひたすらに硬度を高めるだけなので」


 体の表面を覆う魔力を徹底的に硬くし防御力を高めるというものである。見た目で分からず地味で使い道のイマイチ分からない魔法なので、ルーナとしてはコンプレックスなのだが、ブレイクはうんうん、と頷いた。 


「ルーナ嬢の魔法は警護をする身としては非常に助かる……警護対象が鉄壁というのは守り方の選択肢も増えるし、何より気持ちに余裕が生まれる」


 王太子妃としてはとてつもなく有用だ、と続けるブレイクにルーナは驚いた。自分だけしか守れないそれを有り難がられると思っていなかったからだ。今まではアレクサンダーに降りかかる危害を討ち滅ぼすこともできないことから、王宮の教育係には無能と謗られ、いざという時には王太子を守る肉壁となって死ね、とまで言われた。脳裏に蘇る暴言の数々に震えているとブレイクが優しく微笑む。


「ルーナ嬢、今はどの辺まで耐えられるように?」

「……思いつく限りの武力では私を傷つけられませんわ」


 意識している時なら銃や剣を弾くことも出来る。流石に内臓を強化できない以上、毒を食事に混ぜられたりしたら難しいが酸を顔面に向けてかけられる分には問題ない。昔はもっと生傷ができたが、痛い思いをしたくない死にたくないと思いながら魔力を練り上げ続けた結果、文字通りの鉄壁が出来上がった。


「すごい……ルーナ様、かっこいい……あっ、でもそうしたら私、お役に立てませんね……」

〈そうよねぇ、ミア・ベネットの魔法は傷を治す魔法だものね。あんたには要らない魔法ねぇ〉


 不意に再び聞こえてきたオネエの声にルーナは飛び上がる。


〈あれ? その感じ、今までも話しかけてたけど繋がってなかった感じかしら? うーん、やっぱ酒はダメねぇ。せっかく練った魔力が散らばるわ〉


 サンは魔法を使って未来から声を届けているのか。オネエの言葉からそれを察したルーナはその途方もない魔力操作につい圧倒される。少なくとも今まで時間に関与する魔法は報告されたことがないはずだ。あの人は何者なのか、と一瞬疑念が込み上げてくるが、それより気まずそうにしているミアに声をかける方が先だ。


「何を言うのです! 傷を治す魔法ほど重要なものはありません! 自虐なさらないでくださいまし!」

「そうだ! ミア嬢の魔法はあらゆる人々を助けられる魔法だ! 」


 ブレイクも同意を示すように続ける。そんな二人の必死な様子にミアはキョトンとしていたが、すぐにはにかんだように微笑んだ。


「えへへ、ありがとうございます。もし何かあったら私が真っ先にルーナ様を助けます!」

〈キマシタワー!! 噂のキマシタワーねっ!! あーんっ、子兎ちゃん、なんて罪な女!! 女に興味なんてないはずのオネエに、百合の尊さに目覚めさせるなんて! キマシタワー!!〉


 言っている内容の大半が意味が分からないもののとにかく脳内がうるさい。少ししおらしくしていたと思ったオネエは燃料を得てイキイキとしている。とはいえ神妙にして塞ぎ込んでいるようなサンの言葉を聞くよりはずっと楽しいので、ルーナもつられてクスリと微笑んだ。そんな二人をブレイクは優しい目で見つめていた。


◇ ◇ ◇


 なんとか次の授業前に演習場に辿り着くと、ルーナの周りに何人かの生徒が駆け寄ってくる。あまり話したことは無いクラスメイトだが、それでも皆、ルーナを案じるような目をしていた。


「セレスティア様、お体の具合は大丈夫ですか!?」

「もしまた気分が優れないようなら私共がすぐに医務室に連れていきますね!」

「お労しい……でも健気に微笑まれるセレスティア様も美しい……」


 よく見ればミアと時々会話している女子生徒が中心だ。ということは下位貴族の令嬢達か。だが何故熱の篭った視線を向けられているのか。


「あ、あの……もう大丈夫ですので……皆様方、ありがとうございます」

〈想像以上に百合百合してるわぁ……分かるわ。子兎ちゃん、かっこかわいいもの。オネエ、びっくり〉


 ルーナがたじろいでいると後ろにいたブレイクが頷く。


「ルーナ嬢はご自身が思っているよりずっと皆に慕われているからな。これをきっかけにもっと自信を持ってほしい」


 後方彼氏面。だが、そう言いかけた口をサンはあえて噤んだ。

 

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