あーら、それ、いいわねぇ~
意識を取り戻したカオルから保護して欲しいと言われるのは想定内だった。何しろ禁じられた道具を使って無理矢理命令に従わせられていたのだ。
「わっ、久しぶりに嫌な感じがしない……!」
リズによって壊れた腕輪を見て、カオルが笑みを浮かべる。それは誰から見ても心の奥底からの真実の笑みだった。
「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません! そして皆様方に酷いことをしてしまったことへの償いをさせて下さい!」
やはり根は悪い人物ではないようだ。確かに倉庫での時もルーナを陥れることに罪悪感を抱いていたように思う。
「別に構わないですわ。ただ、アズリア殿下と貴女とのについて聞かせてもらっても?」
「はいっ! まずは私がこの世界に来てしまった時のことからお話してもよろしいでしょうか?」
なんでも話しますっ、と勢いよく言われて逆に気圧される。どれほど抑圧されていたのだろう。
カオルはシブヤ、という街からこの世界に飛ばされてきたらしい。オネエはその地名に聞き覚えがあるらしくこっそり、あそこねぇ、などと漏らしていた。家のドアを開けたと思ったらレニアの王宮にいた彼女はすぐさま捕縛され、なんの説明もなく隷属の腕輪を付けられたらしい。そしてアズリアの奴隷のような扱いを受けながらこの世界について勉強してきたという。
「国際法に堂々と違反しているではないか……!」
それを聞いてアレクサンダーが呻く。この国での異世界人の扱いと比べると雲泥の差だ。カオルは力強く頷いた。
「あと、ここからは信じて貰えないかもしれないんですが……実は私、人生二回目なんです」
「えっ」
ルーナは思わず反応してしまう。それを疑われていると勘違いしたのか、カオルはくしゃりと顔を歪める。
「一度目の人生ではミア様に成り代わり殿下に取り入れと命令されて……うぅ。ほしくもない宝石をねだれとか、色仕掛けしろとかっ。ただアズリアを引き立てるために! 何が清貧を尊ぶ聖王妃よっ、心の中はドブ以下のくせに!」
「……ガイアがここにいなくてよかったわね」
ミアが淡々と呟く。彼女からすれば未来で自分が殺された後成り代わって自らを落としてた宿敵なのだが、相手が気の毒すぎて怒る気すら失せているらしい。思い出してあまりに辛かったのか泣き出し始めたカオルを撫でながらルーナは表情を曇らせた。
彼女は二回目の人生といった。そしてガイアが言っていた未来の事象とも一致する。人が変わったようなミア、というより本当に別人が成りすましていた。
「……では、貴女がアズリア殿下を殺害したのですか?」
未来の世界でアズリアはミアに殺害されたと聞いている。カオルはルーナの問いに驚いたように目を見開き、そして頷いた。
「何故それを……ええ。これ以上は私の心も国民も耐えられない、そう思ったから。その頃の私はずっと死にたくて死にたくて、それでもあの女に復讐してからでないと死にきれなくて。だから」
自らの腕を切り落として自由になった後、アズリアに毒を飲ませて苦しんでいるところをナイフで何度も刺して殺しました、と静かに告げる瞳が底知れなくてルーナからすると恐ろしかった。
「その後私も自害して……気が付いたらとある御屋敷にいたんです。なんか色々言われて……気が付いたらあの女に奴隷にされた日まで戻ってました。それからはご存知の通り……」
〈子兎ちゃん、この子もまた、被害者よ。殺しがない環境で生きてきた子が殺ししか選べなくなるほどに追い詰められていたのだから……悪いことをしたわ〉
しみじみと呟くオネエの声はどこか遠く聞こえた。
「あの女から自由になるためならなんでもします! だからっ」
〈じゃあ、このJKを使ってアズリアを嵌めちゃわない? 〉
じぇーけーとはなんだろう。恐らく文脈からして
カオルのことなのだろうが。ルーナは考える。カオルという突然現れた人物の活用法を。
「落ち着いてくださいませ。あの……カオルさんは私に変身できますわよね? それを使って意趣返しをしませんか?」
〈あーら、それ、いいわねぇ~〉
見えないはずのオネエが悪い笑みを浮かべるのがルーナにはわかった。




