心のままにいきなさい
お盆休みとはなんだったのか(社畜)。
少し間が空いてしまいましたが更新です。
未来のアレクサンダーと違って今目の前にいるアレクサンダーは癖は強いし無茶苦茶なところはあるが、悪人では無い。だが、アズリアが婚約者になる可能性が潰えた今でも、彼の横に自分が並び立つビジョンが浮かばなかった。
そんなルーナに彼はとうに気付いていたらしい。アレクサンダーは少しだけ寂しそうに笑った。
「以前の貴女なら義務感で迷わず私のドレスを選んだだろう。だが迷っている時点で貴女の心は私にはない。後先考えず好きにしていい。他の誰がなんと言おうと私が許す」
私は貴女を人間として尊重しているから、と視線を逸らしたアレクサンダーの目に涙が浮かんでいたのは気のせいだろうか。
〈そうよ、子兎ちゃん。心のままにいきなさい。これは貴女の人生なのだから〉
「オネエさん……」
心のままに。
ルーナは言葉に詰まり、唇を噛み締める。たかがドレス。否、それはあくまで一つの象徴。それが意味するのは。
「殿下……」
ごめんなさい、ありがとう。
そんな思いを込めてルーナは微笑む。その場にいた者は皆、息を飲み、そして俯いた。
「……見事に振られたな。だが、不思議と心は凪いでいる」
その言葉に偽りはなく少しだけ寂しそうな顔をしていたものの、アレクサンダーの表情は晴れやかだった。
「さて、こっちは再利用するとして! ブレイク、選ばれたからにはしっかり守るといい!」
「はい、殿下!」
かつての未来と違い、主従の間に蟠りは生まれなかった。
◆ ◆ ◆
アレクサンダーという人は不器用で、でも優しい人だと思う。
自室でセバスチャンに世話をされながらルーナは思いを馳せる。
いくら冷淡な振る舞いをされ続けてきたとはいえ、彼自身は婚約者である彼女への接し方が分からなかっただけなのだと痛感させられる。婚約者どころか人との付き合いすらも下手なのだからそれは仕方ないだろう。だが、ルーナが変わってからは彼もまた自らを閉じ込めていた檻を壊して、そして変わっていった。
だからこそ、ルーナは彼を選べなかった。
「殿下にはもっと相応しい方がおりますわ」
こんな自分のような歪んでしまった死者のなりそこないではなく、もっと彼を心から愛することの出来る存在は必ず存在する。それだけは確かだった。それに。
ルーナは彼との婚約の継続を本当の意味で望まないもう一人の存在を思い浮かべる。これでいいのだ。それに自分がブレイクに惹かれ始めているのは確かで。オネエは既に眠っているのか何も言わなかった。
◆ ◆ ◆
ブレイクは心配だった。
「さて、ルーナに引けを取らない令嬢を探すのは骨だな」
婚約者から振られた自らの主の空元気は見ていて痛々しくて、そして少しだけ後ろめたかった。お見合い写真を取り寄せるよう声をかけた彼の後ろ姿はしょぼくれているようにも思えた。
「殿下」
「そんな顔をするなブレイク。これでいいのだ。本当に」
アレクサンダーはそれでも笑顔だった。王太子として、体に覚えさせられているのだろう。自然で、だからこそ、本当の笑顔を知っているブレイクからすると違和感しかない笑顔だった。
「彼女の明るい未来に私はいらない。尊敬する上司、それぐらいの距離感がお互いにいいのだ。それに」
彼の目が濁る。それはどこか痛ましいものを見た時のようで。
「最近夢を見るんだ。そこで私は彼女やお前達に信じられないような酷いことをする」
「夢、の話ですよね……? 何を気にされてるのですか、殿下」
だが、アレクサンダーは曖昧な様子で返事を返すことは無かった。




