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執事の名前はセバスチャン!

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 結局午後の授業の間ぶっ続けで寝てしまったルーナは頭を抱える。そんな彼女を見て、医務室の医師は優しい表情を浮かべている。それもそうだろう、本人に自覚は無いが明らかにルーナは慢性的な過労状態だった。王太子妃教育に学業とろくに休まる暇もないのだから。いくら将来尊き人になる予定だといえ、この学園では庇護下に入るべき学生の一人、だからこそ体を壊すよりゆっくり休んで欲しいというのが医師の本心だ。


「ありがとう、ございました……」

「セレスティア侯爵家にはきちんと連絡してありますからね。これからも無理をなさらずに早めに休みに来てくださいね」

〈そうよー! いくらあんたが過労死してもあの腐れピーマンは有難みがわかってないんだから、もう、適当にやっちゃってー!〉


 相変わらずサンのテンションは高い。だが、ルーナにつられたのか少しだけ眠そうだ。ふわぁ、気が抜けたという欠伸の声が聞こえてくる。


〈……ねむいわ。悪いけど〉

「あとは家に帰るだけなのでオネエサンはおやすみくださいませ」


 連絡がいっているなら屋敷の馬車が迎えに来てくれるはず。ルーナはとろんとした目を擦りながら馬車を待った。


〈……むかえ。あれ、そういえば、あんたのところのしつじって〉

「セバスチャンのことですか?」


 次の瞬間。


〈セバスチャン! そうよ!あの愛情クソ重天誅男! 子兎ちゃん、セバスチャンにも惚れちゃダメ! あの小姑は純粋無垢な子兎ちゃんには早いわ!〉


 先程までうとうとしていたオネエが覚醒した。それにしてもまさか未来ではセバスチャンのことも知られているのか。一介の使用人だというのに。ルーナが驚いていると、サンがギリギリとハンカチを食いしばる音がする。


〈執事の名前はセバスチャン! 執事といえばセバスチャンよ! でもあんたやアタシが知るセバスチャンは子兎ちゃんが死んだ後、暗殺者に転向して子兎ちゃんの死に関わった奴を片っ端から始末してきたヤベェやつよ!〉


 暗殺者。ルーナが知るセバスチャンは物腰柔らかな細面の美中年だ。移民の生まれだということで髪や瞳の色はこの辺りで見ない光沢の少ない黒色。スマートな所作から周囲からもよくモテているのを見るが、真面目なのでひらりとかわしているのは日常茶飯事だ。


「セバスチャンが、ですか?」

〈そうよ! 思い出してみなさいな! セバスチャンはやたらナイフや剣の扱いがうまくなかった!? あれでくいっとして、さくっと仕留めるのよ! あれで何人の豚貴族が死んだことか……背筋がゾワっとしたわぁ。返り血が、ぶわぁっ、ってなっても、天誅天誅って鳴いて笑ってるのぉ〉


 身に覚えはあった。幼い頃、ルーナを襲撃したならず者を始末する時にそんなことがあった気がする。セバスチャンは護衛を兼ねた執事だ。曲芸のような動きでならず者の首をへし折ったのを見たルーナはしばらく肉料理が食べられなくなった。今は流石に平気だが。


〈セバスチャンはお嬢様至上主義だから本当におっかないのよねぇ……触らぬ神に祟りなしというか〉

「ーーお嬢様、お待たせしてしまい申し訳ございません!」


 涼し気な声がする。そう、セバスチャンが来たのだ。御者をしていたセバスチャンはルーナの顔を見て、安心したように目元を和ませる。


「顔色、随分良くなりましたね。最近どうも塞ぎ込んでいたようでしたので……」


 自覚があるルーナは視線を逸らす。

 確かにルーナはここの所、憂鬱だった。その原因は王太子妃教育だ。確かにマナーや勉学が大切なのはわかる。だが。それ以上に辛さが勝った。王族のために尽くせと施される個性を踏みにじるような洗脳じみた思想教育。元々違和感はあった。だが、昨日からのサンとのやり取りで確信した。あれは、やはり異様だ。


「心配かけて、ごめんなさい」

「いえ、心配させてくださいませ。我らはお嬢様の使用人なのですから」


 やはりセバスチャンはいい人のようにしか見えない。だが、もし、ルーナが処刑されたら。


「てんちゅう」

「……おや、お嬢様、どこでその言葉を」


 漏れた言葉にセバスチャンの纏う雰囲気が変わった。くくっ、と普段とは違う笑い方をする彼はどこか獰猛な目をしていた。


「懐かしい……ええ、とても懐かしい。柄にもなく久しぶりに血が沸き立ちますな。こちらはとても平和なので。ところで、お嬢様、どこでその言葉を?」


 殺される。笑顔なのに笑っていない。ルーナはへたり込む。無意識にガタガタ震える体をいなすのは到底無理そうだった。そんなルーナを見て、セバスチャンはすぐに我に返る。そしていつもの好々爺然とした表情に戻った。


「……失礼いたしました。お嬢様、私共が敵意を向けるはお嬢様の敵にだけです。御安心くださいませ」

〈……おっかなぁい〉


 あの暴走オネエがつい黙り込んでしまうほどなのか、とルーナは途方に暮れた。

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