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あいつ、あの激重愛情男の息子よ?

 それからも三人とオネエは情報を擦り合わせた。


「死にかける、もしくはそれに等しいほどの衝撃を受ければ魅了は解除される、その認識でよろしいのですね」

「あぁ。トレイ殿に実践させられたいようがちかいなぁ」

「ブレイク様、今は忘れてください。話が進みません」


 話しているうちにフラッシュバックする空を飛ぶ感覚に赤ちゃん返りし始めるブレイクをルーナは叱咤する。


「そして魅了は一度解けてしまえば、二度とかからない」

「だから私自身を洗脳するのは諦めてルーナを篭絡したのだろう。だが、ルーナは自力で跳ね返したから代わりに周囲を煽動して貶めて婚約者の立場から引きずり下ろそうとしている……ルーナ、本当に大丈夫だったか? 辛かっただろう」


 自分達が登校しなかったことで一人で耐え忍ぶ羽目になったルーナに対し、少し罪悪感があるのか、アレクサンダーは眉を下げる。


「いえ、王太子妃教育で虐げられるのは慣れていたので。それにガイアもいましたし」

「うっ」


 天然ゆえの悪意なき口撃にアレクサンダーが胸を押さえる。致命傷である。


「それにミアさんはガイアが明日までに取り返してくれると言ってましたしね」

〈やけに具体的だったわねぇそういえば。心当たりでもあ……待って、ちょっと嫌な予感がするんだけど〉


 オネエが何かに気付いたらしい。三人は黙ってオネエの言葉の続きを待つ。


〈……ガイア、あの感じ、多分ミア・ベネットに無自覚で惚れてるわよね?〉

「……ミア・ベネットを奪われると思うと胸がムカムカするって言ってましたわね」


 それは悋気ではないか、と確かにルーナもその時思ったのだ。


〈アイツの顔面フルに使えば正気に戻るかもって言ってたわよね?〉

「ついでに、ちょっと人格狂うかも、って言ってましたわね」

〈……未来では、処刑の時にガイアの素顔を直視した女子供野郎、ことごとく理性沸騰してやべぇことになったのよねぇ。色恋に狂ったというか、サバトじみた事になったというか。そんな魔貌を、それも全力で本人が落としにいってる状態でミア・ベネットが食らったら、どうなっちゃうのかしら。あいつ、あの激重愛情男の息子よ?〉


 神様も罪ねぇ、と付け足すオネエの声は乾いていた。嫌な予感ほどあたるものだ。沈黙が室内に広がる。


〈……明日には既成事実、なんてことになってないことを願いたいわねぇ〉

「き、き、きゃぁぁぁぁ!?」


 思わず悲鳴を上げてしまった。


◆ ◆ ◆


 旅装姿のリズは高台から見下ろす目の前の惨劇に思わず乾いた笑いを浮かべるしか無かった。彼女は日差しよけのフードの内側でも分かるほど幻滅しているのが分かる。


「なぁにこの地獄絵図。女王蜂の王女様がいなくなるとこんなことになるの?」


 街中では夥しい数の人々が虚ろな目で座り込んでいる。指示を待つように。最低限の生命維持活動しかしない様子は傍から見て人間とは思えなかった。操り糸が切れた人形。そんな印象。自分の意思で動き回っているリズの方が浮いている、そんな状況だ。


「リズ・グリニッジ、減らず口はそこまでだ。仕事の時間だ」

「はぁい」


 そして今の彼女は一人では無い。


「にしてもまさかフリューゲル先生が、私と同じ工作員とは思ってませんでした!」


 そう、その隣には険しい顔をした教師。


「……むしろお前が工作員として今まで潜んでいられたのが不思議だが」

「えっ、そうですか? 色んなところに支部を持つような優れた商会って割と諜報機関兼ねてますよね」


 それに、とリズは自らの目を覆う。


「私は商売に役立つような魔法は使えなかったのでこっちの方が適任というか。もっとも荒事は好きじゃないので、なるべく暴力沙汰は他のグリニッジに任せるようにしてるんですよ。そういう部門もありますし」

「……グリニッジ、恐るべしだな」


 リズの言葉。それは裏返せばグリニッジ家に連なる者が組織立って諜報をしているということだ。今後はグリニッジ商会の商品は買わないようにしよう、とゾイドは決意する。購入履歴から個人情報を握られて脅されそうだ。すると彼女はカラカラと笑った。


「フリューゲル先生こそ。普通の人は国から他の国までを一秒足らずで移動するなんてできませんよ。しかも一人なら同行可能とか。そんなの、あちらの世界でもまだ実現できてない技術ですよ」


 反則気味ですよねぇ、と首を振られるがゾイドとしては報告の時に早く伝達できて便利だな、としか思ってないのでいまいち実感が湧かない。それに目の前の少女の魔法の方がもっと凶悪だ。


「と、無駄話が過ぎましたね。さっさと死人が出る前に終わらせましょうか! 」


 フードを外したリズの目はいつもの色と違っていた。その瞳は光一つ通さないようなどこまでも深い闇の色。見るものを不安にさせる色だ。


「トレース元はジーク・ロニア、魔法の色は無効化……よし」


 その非凡な色彩が平凡なありふれた色に変じていく。そしてその変色が完全に落ち着いたのを見計らってリズは口を開く。


「みなさーんっ! 朝ですよぉー!! さっさと起きろ!!」


 一人の王女にとって都合のいい夢に沈んだ王都は今目覚めの時を迎える。

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