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子兎ちゃんのどこが悪役令嬢じゃボケが

ストックできたので連続投稿です。

〈なによ……なによこれ……!? どこのボケナスがこんなことしやがった!? 絶対許さない!!〉


 翌朝。

 登校したルーナは思わず自分の机の上の惨状を見て言葉を失う。散乱した生ゴミ、虫の死骸。身に覚えのない陰湿な嫌がらせにルーナは思わず周囲を見回すが先に登校していた生徒達は何も知らない、と言わんばかりに顔を背けていた。一緒に登校したガイアはすぐに顔を険しくして、机の上を片付け始める。


「お嬢様、俺の机をお使いください。匂いが染み付いてやがる……教師陣には後程調査を依頼します」

「え、ええ……」


 誰が一体こんなことを。

 泣きたくなるが堪える。犯人がこの場にいるかもしれない。そこで泣いたら相手を喜ばせるだけだ。


「ーーごきげんよう」


 ちょうどミアが教室に入ってきた。だが、その隣にいるのは。


「……あら、どうして私の机が汚物まみれになっているのかしら?」


 例の従者の少女を従えたアズリアが心外そうに眉を顰める。何を言っているのか。あれはアズリアの席ではなく、自分の席だ。片付けをしていたガイアも不可解に思ったのか手を止める。


「そこの執事の仕業ですか? ルーナ様、酷いです。私がそんなに目障りだというのですか? まさか殿下を盗られるとでも?」

「お労しいですわ。よくもこんな悪辣なことをしておいて恥ずかしげもなく立っていられますねっ」


 わざとらしく泣きそうな顔をするアズリアにミアが慰めるように声をかけつつも、ルーナを敵意ある目で睨みつけてくる。本来ならキラキラと真っ直ぐに煌めく大きな瞳は今まで見たことがない色に澱んでいた。別人になってしまったかのように。

 理解した。

 あの女は敵だ。

 ルーナは真正面から震えているアズリアを見据える。可憐で手折られそうな王女は瞳の奥に傲慢さが光っていた。全てを理解し、その上で自分に都合のいい筋が通らない理論を振りかざすのに慣れている、そんな性根が透けて見えた。拳を握る。我慢しろ、教室中が洗脳されている今、この場にいる味方はガイアだけ、何をやっても敵わない。

 それでも。


「お言葉ですが、アズリア殿下、それは、私に対する宣戦布告でしょうか?」


 初めての友を卑劣な手段で奪い取ろうとするのだけは許せない。親友から理不尽な罵倒を受けているというのに屈服するのではなく綺麗な微笑みに毒を混ぜたルーナを見て、アズリアは初めて驚いたように目を見開く。


「それが貴女様のやり方なら、私は抗います。だって」


 きっと昔の彼女だったら耐えるだけ耐えて、最終的に全てに疲れ果てて潰れていたに違いない。その一歩手前まで行ってしまったから分かる。

 でも今は違う。

 王太子妃教育で身につけさせられた完璧なマナーで優雅に振る舞う。彼女が由緒正しい王女様だというのならば、自分だって非の打ち所のない淑女なのだから。


「私は強くてかっこいい最高の女、だそうですので」

〈子兎ちゃん……!〉

 

 何よりそんな自分を応援してくれるオネエがいつも見守ってくれているのに折れてなんていられない。アズリアの従者の女子生徒が何かを言おうと前に一歩踏み出す。だが、それを制したのはアズリアだった。


「そう……随分とお可愛らしいのですね、ルーナ様」


 そして清廉としか言いようのない笑みで毒を吐く。


「貴女、目障りですわ」


◆ ◆ ◆


 数時間後にはルーナは疲れ果てていた。


「流石の悪役令嬢ね。悪運だけは強いんだから」


 教室移動の度に階段から突き落とされそうになったり、上の階から鉢が落とされたりする。そのせいで自衛のために魔法を使い続ける必要があり、物理的に疲弊していく。

 ひそひそとこちらに聞こえるように悪口を言う女子生徒達の目はやはり濁っていた。


〈おのれ……子兎ちゃんのどこが悪役令嬢じゃボケが……〉

「ガイア、そういえばリズは見てないですか?」


 ミアはずっとアズリアが連れ回している。所用で離れようとしてもアズリアが呼び止めた瞬間、従順に動きを止めてアズリアの言うことに従い始めるのだ。ミアが親友だと知っていて見せつけているのだろうか。自分も巻き添えで被害にあっているガイアも少しズタボロだった。


「見てないですね。グリニッジ嬢は今日は登校してません。あとアレクサンダー殿下とオーガスタ様に至っては昨日から登校してません」

〈……不自然ね。作為的なものさえ感じるわねぇ〉


 それにしても悪役令嬢か。思わず笑い出したくなる。そんなに自分を邪魔者にしたいのか。


「こんなことせずとも差し上げますのに」


 今の自分はアレクサンダーと結婚したいだなんて今は思ってもいない。ただ平穏に生き延びたいだけなのに。と、ガイアが黙り込んでいることに気付く。


「……ガイア?」

「……お嬢様、申し訳ありません。こんな状況で申し上げるのは恐縮なのですが」


 彼の視線の先にはアズリアの隣で甲斐甲斐しく世話をやくミア。眼鏡の内側で細められた瞳は怒りに燃えていた。


「俺、ミア・ベネットを諦められません。お嬢様ならともかくあんな性悪お姫様に奪われるなんて、見る度に胸がムカムカして……」

〈……あら? これって、ひょっとして〉


 何かに気付いたらしいオネエが少しだけ愉快そうに呟く。


「少しだけお側を離れます。明日には絶対ミア・ベネットを取り返してみせましょう」

「……ガイア、任せますわ」


 するとガイアがふわりと笑った。泥やゴミで薄汚れていても隠せない魔性の美貌が光り輝く。


「御意」


 次の瞬間。

 その姿は一切視認出来なくなる。存在感を希釈する魔法を使ったのだろう。そこにまだいるはずなのに彼でなく、向こう側にあるはずの壁を勝手に脳が補完している。


「……これが、ガイアの魔法」


 これなら暗殺も容易いはずだ。かつて未来を騒がせた片鱗を目の当たりにしてルーナはゆっくりと目を閉じた。

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