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マスター、もう一杯!

月末業務で体調崩してました(現在進行形)。

更新です。

 ルーナは思わずポカンとしてしまった。淑女らしくないとは理解しつつも目の前のそれは彼女にとってはあまりに未知で。

 その正体は目の前の婚約者が浮かべる顔のせいだった。


「すると、その、この執事は未来で私を殺そうとした、ということか?それで私が、その変態貴族とやらにやつを売り飛ばしたと?しかも未来から現在を変えようと……? すまない、少し理解が追いつかない」


 アレクサンダーが浮かべる表情は臭いものを嗅いだ時のような王子様らしくないしわっとしたものだった。ブレイクも見たことがなかったらしく何度もチラチラとしている。

 放課後、あらかじめアレクサンダーがサロンを貸切にしておいてくれたおかげで人気は無い。


〈……全部本当よ。あー!もう酒飲んで現実逃避したい気分! マスター、もう一杯!〉

「どの口がそれを言う……はぁ、頭が痛くなってきた」


 一人だけオネエの声が聞こえていないガイアはアレクサンダーが誰と会話しているのかと首を傾げている。ルーナはオネエの存在をガイアには教えていない。王族であるアレクサンダーの機密情報に関わるからだ。


「とりあえず現在は害意はない、そういうことでいいか?」

「……ええ、おそらくは」


 張本人と言えば無言でアレクサンダーとブレイクを凝視している。


「……何か?」

「いや、その……発言してもよろしいので?」


 一応使用人という事で弁えてはいるらしい。先程はファーストインプレッションを強くするためにあえて軽口を叩いてはいたが、神妙にしているところをやはりガイアも流石に自分の立場を理解しているようだ。


「俺が知るお二人は、その……既に決別した後でしたので仲睦まじい様子が信じられないというか。というより……殿下は本当に人間なのか? と思ってました。鉄面皮で人を人と思わず処刑を繰り返していたので」

「……そうか」


 アレクサンダーは何か思うところがあるように目を伏せる。


「ここまで今と未来で人が違うとなれば、何か精神に作用する薬物を長期的に盛られていた可能性もありますね。避けないといけないことばかり増えていく……全く問題は山積みだ」

〈薬物……〉


 ブレイクの溜息にオネエが妙に反応する。ルーナは何か引っかかるものを感じたがその正体までは分からなかった。と、窓が開いていたらしく、吹き込んできた突風に髪が巻き上がり、思わずルーナは目を細める。


「……なんか、まとわりつくような、変な風ですわ」


 何故だろう、不穏な予感がした。


◆ ◆ ◆


「ルルティナ、じきに役者は揃うわよ」


 その人物は学園を見ながら笑う。


「私が鍛えたガイアは無事そちらに合流したわ。後は彼女達がどうにか頑張るだけ」


 一目で人間でないと分かる。姿形こそ少女の姿をしているが、その顔はあまりに整いすぎており、見るだけで生理的な恐怖を覚えるほど。艶やかな黒曜の髪は季節外れの生あたたかい風に揺れていた。


「あの子との契約だもの、ちゃんと従うわ。ただ、ただ、もし、これでも詰むなら、私が滅茶苦茶にしてもいいわよね?」


 話し相手の姿は見当たらないがそれでも少女は鈴を転がすような快い音色で問いかける。


「私、ハッピーエンドが好きなの。え? 世界を一つ滅ぼしたことがある魔神が言うな? 辛辣ね。だからこそ、私はハッピーエンドが好きなのよ」

 

 その瞳は魔性の血赤。


「私はルーナ・セレスティアとの契約に応じ、未来改変がなされない場合はこの世界を滅ぼすわ」


 まだ、当事者達は知らない。

 悪意の果てに朽ちた乙女の憎悪が今再び舞い戻ろうとしていることを。

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