シンプルに暴力
とりあえずあの人生を舐めきった顔を跡形も残さず潰します。
ミアが突然現れた黒装束の正体不明の青年により誘拐されたことをセバスチャンとザラに伝えると、それはそれはいい笑顔でセバスチャンが微笑んだ。なんでも誘拐された時はちょうどガイアが警護を担当していたらしい。
「客人を守れなかった時点で処罰、そしてあろうことか、その立場を利用し客人を攫ったというのなら、もうお嬢様の敵、すなわち自ら死を選んだということでいいのではないでしょうか?」
「待って、セバスチャン。極端すぎますわ色々と。そんなにさくさく自らの息子を殺す処断をしないでくださいませ」
静かに怒り狂っているセバスチャンはどこからか剣に似た武器を取り出してカチカチ鳴らしている。怖い。シンプルに怖い。笑顔なのに目だけは一片の曇りなく瞳孔が開ききってギラギラしている。
〈ひえっ……〉
「いえ、極端ではございません、お嬢様。先程、我々に愛の神ルルティナ様より、神託がございました。余計なことをするガイアを一回〆ろと」
「ええ、お嬢様、これは天誅です。天の意志なのです、だから止めないでくださいませ」
さりげなく神託と言っているがそれは電波じゃないのかしら、などとオネエは気が遠くなる。だが、悲しきかな、オネエの言葉は狂信者達には届かないのだ。
「愛の神ルルティナ様」
「ええ、我等が元いた世界に実在した愛を司る女神様です。神官だった我々はルルティナ様の命で不当な婚約破棄をちぎっては投げ、ちぎっては投げをしておりました」
やんちゃな過去を聞かれて恥ずかしい、と照れた様子でぽっと頬を赤らめるザラ。彼女はまだ話が通じるかもしれない。一抹の期待を込めてルーナはザラに呼びかけようとする。が、その言葉は出ることは無かった。
「主にザラが暴れ回ってましたかね。私はあくまで姉の敵討ちだったのでそこまで熱心ではなかったので……」
「浮気男はすり潰して資源利用しなくては、です。ふふふ、社交界の血の花と呼ばれた過去が懐かしいですね」
駄目だ、まともじゃない。ルーナとリズは顔を見合わせる。これはガイアとかいう誘拐犯が五体満足で生き残れるかすら怪しくなってきた。
◆ ◆ ◆
「とりあえずこれで愚息が魔性の顔で皆様を誑かすことなないでしょう。ルルティナ様もこれでよし、と仰せです。では、報復はご随意にどうぞ」
小屋の中にいた誘拐犯を掌底により一瞬で天井に打ち上げたセバスチャンが畏まる。天井に埋まった際に衝撃で気絶したのか、いくら相手が誘拐犯とはいえ、ぷらーんと力なく首から下が天井からぶら下がっている光景は異様だった。
〈えっ、あの、今何があったのか分からなかったんだけど……!?っていうか、その……これ……シンプルに暴力〉
「ですわね……」
ドアを開けるよりも早くカタが付いた誘拐事件にルーナは言葉を失いながらもミアの無事を確かめる。よかった、何もされていないようだ。
「無事でよかったですわ……!」
「私も数分前目が覚めたばっかりで……やっぱりセバスチャンさんの息子さんだったんですね」
ミアはどうやら素顔を見たようだ。仔細を知らないミアが親子関係を推測できるぐらいには似ているようなので、一体どんな顔なのだろう、と思ったが、この様子だと数日は腫れと出血で原型を留めていないだろう。
「あの、その……セバスチャンさん、ザラさん。私、本当に何もされていないので、その辺でしておいていただけると……色々と聞きたいこともあるので」
「……命拾いをしたな、愚息が」
身内に向けての言葉だろうか、素の淡々とした口調で吐き捨てたセバスチャンは話をしたいというミアの意志を尊重したのだろう。盗み聞きをしない、と示すようにルーナ達から距離をとる。とはいえ何かあればあの瞬間移動じみた脚力で駆けつけるのであろうが。
「えっーと……あの、聞こえますか?」
「あっ、治癒魔法かけますね。意識は多分それで戻ると思います」
ミアが治癒魔法を使うと、首から下がビタンビタンと跳ねる。
〈なんか……相手はイケメンのはずなのに、こうしてると陸に揚げられたマグロが跳ねてるみたいねぇ〉
しみじみとしたオネエの声が哀愁を誘った。




