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悪役令嬢死す!

 処刑。

 ルーナはサンの言葉が信じられなかった。だがサンは真面目な様子だ。先程までの癖が強い話し方を少し弱めて、落ち着いた様子でルーナに言い聞かせようとする。


〈あんた、言葉が足りないってよく言われない? その無駄に整った見た目のせいもあるかもしれないケド……未来のあんたは婚約者であるアレクサンダー王太子に卒業パーティーで婚約破棄されて平民落ち、でぐっちょんぐっちょんのねちょねちょのぬっぷぬぷにされた挙句首斬られて死ぬわ。まぁ、未来のあんたがちょーっと悪いことしてたって言うのはあるけど。それでもあんな酷い死に方するほどじゃないよねぇ……まぁ、悪役令嬢死す! っていうのは分かりやすく民衆を手懐けるられるから仕方ないわねぇ〉

「……」

〈とはいえ、あの糞野郎……アレクサンダー王太子はあんたの死後、あんたへの罪悪感で狂うのよ。なら、最初から殺すな、って話なんだけど……その結果大粛清を強行、で異世界送りよ。だからあんな奴、糞野郎で十分なの〉


 異世界。その言葉にルーナの喉がひゅっと鳴った。それは罪人が送られる場所と聞いている。この世の常識が通じず、同じ姿形をした生き物が住んでいるという。一方通行の場所なため、実質異世界送りになるのは死罪同然と言われている。

 やれやれ、とサンは言葉を切る。心底不愉快だ、という本心が声に滲み出ていた。とはいえ、ルーナの考えは違う。

 卒業パーティーというからには婚約破棄されるのはあと三年ぐらい後のことだろう。ただ、彼女、そして婚約者であるアレクサンダーは今十四歳。それならばひょっとしたら。


「……オネエサン、一ついいでしょうか」

〈何よ〉

「私が悪い子にならないようにご指導お願いしますわ。明るい未来のために」


 不本意な方法で死ぬとわかっていて漫然と日々を過ごすつもりは毛頭ない。そして今のところ、まだルーナは悪事に手を染めていない。まだ踏みとどまれるのだ。

 ルーナの真剣な様子に気付いたのだろう、サンはぶつぶつと何か呟いていたが、やがて深い溜息をついた。


〈本当に、いい子ねぇ……あんな糞野郎には勿体ない子よ。いいわ、あんたがあの糞野郎の毒牙にかからないようにアタシがビシバシ叩き上げてあげる!〉


 張りのある声は何故か信頼感に満ちていた。


〈じゃあ、まず、アレクサンダー以外のいい男を探しましょうね!〉


 ……と思ったが、すぐにルーナは自分の決意を後悔した。


◇ ◇ ◇


 アレクサンダー・ベルフィール。

 完全無欠な王太子として将来を期待される彼は、正直婚約者であるルーナからしてもあまりどういった人柄なのか判断に困る。別に冷たいとかそういう訳では無いが、心の内側を明かさず距離を取られているような、そんな印象を受けるのだ。貴族である以上、恋愛結婚は難しいと思っているルーナでも流石にどう歩み寄ればいいのか迷いあぐねているというのが現状である。

 それでも彼が自分を処刑する、だなんて信じられない。教室で授業を共に受けながらルーナはサンの言葉を反芻する。

 アレクサンダーと自分の婚約は半ば予定調和だった。家格が合う高位貴族の年頃の令嬢は数人しかおらず、そして他の者は血が近すぎた。自分が処刑された後は誰が嫁ぐことになったのだろうか。異世界送りになるまで王太子だということだからひょっとしたらまだ後釜が決まっていなかったのかもしれない。


〈ふわぁ……ぐっもーにん、子兎ちゃん〉


 アレクサンダーのことを考えていたら不意に脳裏に聞こえてきたサンの寝起き声にルーナはぴくん、と身を震わせた。ぐっもーにんとは朝の挨拶のことだろうか。

 昨日もある時間からはサンの声が聞こえなくなっていた。聞こえなくなる直前は眠そうな声をしていたから多分本当に寝ていたのだろう。


〈あー、今授業中なのねぇ……それもあの陰険メガネの授業……駄目だわ、寝起きで頭が回らない〉


 今は授業中だから声に出して疑問点を確認することが出来ない。歯がゆい思いをしながら、ルーナはサンの言葉を待つ。


〈陰険メガネ……ゾイド・フリューゲルね、あいつには近寄らないようにしておきなさい。先生のフリしてるけど、あいつ、工作員よ。毒薬とかヤバイもん、わんさか溜め込んでるから。近寄るとテロの濡れ衣着せられるわよ〉

「どっ」


 予想外の不穏すぎる単語に、つい、声が漏れてしまった。と、やはり聞こえてしまったのだろう、黒板に化学式を書いていたゾイドの手が止まる。そして心配するような顔で彼は振り返った。


「ルーナ嬢、どうしましたか?」

「……ど、どうきが。持病の癪か」


 王太子妃教育の成果だろう、ちゃんと誤魔化すことが出来た。とルーナは思ったがすぐに自ら否定する。病持ちの王太子妃候補なんてありえない。やってしまった、と顔を青ざめさせていると、ゾイドはしばらく黙り込んでいたが、仕方ない、と目元を和ませた。


「そういうことにしておいてあげます。医務室に行くといいでしょう。付き添いはいりますか?」

「あっ、いえ……一人で行けますわっ!」


 命拾いした。気付かれたら処刑を待たずして殺されるかもしれなかった。

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