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なんか寒気がするわねぇ

5月3日のイベント原稿と異動で死んでました。腹痛カーニバルです。

 恥ずかしい。ありえない。許せない。


〈子兎ちゃん、機嫌直してちょうだいよぉ! このまま無視され続けたら流石のオネエも泣くわよ〉


 そう駄々っ子のように。サンが脅しをかけるが、ルーナは無視した。

 サンが男性だったと知った時、ルーナの頭は真っ白になった。そして込み上げてきた感情は先程のものである。それからここ数日、ルーナはオネエと会話を絶っている。傍で聞いているミアとリズはヒヤヒヤしていた。


「ルーナ様、流石にそろそろ口を聞いてあげてもいいんじゃ……」

「私が軽率だったのは認めますから、その、仲直りを……」


 気に食わない。

 ルーナは二人に氷の微笑みを向ける。


「仲直り? 喧嘩なんてしてませんことよ。対話する気すら起きないというだけで」

「怒ってる……」


 極寒の視線にミアがはわわ、と口元をおさえるがルーナは笑みを崩さない。迫力のある悪役令嬢顔が凄みを増した。美しいのだが確実に何人か闇に葬ってそうな残虐な笑みはもし王太子妃として君臨したら最大の威力を発揮していたであろう。そういうところよ子兎ちゃん、とオネエは思ったが、ますます火に油を注ぐだけなのが分かるのであえて黙った。


「いえ? 怒ってませんよ? ……怒っていたらこんな物じゃ済ませませんので」

「ひえっ」


 リズはルーナを敵に回さずに済んだ自分の幸運に感謝した。乙女パワーの餌食にはなりたくはない。あれを食らうのは気に食わない王太子だけでいい。


「ただ、心底がっかりしました。最初から自分が男性だと言ってくださっていたのなら相応の対応をしていたので……」

〈ちなみに知ってたらどうしてたの?〉


 ルーナは目を細める。


「……気が狂ったのだと父に打ち明け、修道院に入っていたでしょう」


 王太子の婚約者である自分が異性と軽率に付き合う訳にはいかない。というより今も本当はそうした方がいいのかもしれない。まだ婚約者なのだから。

 そう告げたルーナだったが不意にあたたかく柔らかいものに包まれて息を飲んだ。


「やだー!! ルーナ様と離れたくないです!」

「せっかくお近付きになれたのにー! ルーナ様私達を置いていかないでください!」


 ミアとリズに抱きつかれたのだ。はしたない、無礼だ、と一蹴することもできるそれを、ルーナはあえて咎めなかった。二人の友人に求められて悪い気分はしなかった。


「あ、あとルーナ様は修道院向いてません。勤勉で優秀すぎて周りからやっかみ受けて、最終的に全員陥落して……いつしか修道女達がルーナ様を求め合って争い合う爛れきったドロドロの百合の花園の出来上がりです」

〈……どうしよう、容易に想像できるわ。というか今もその一歩手前よね?〉


 あまりに想像に容易い、と締めたリズの真面目な声は意味がわからないながらもルーナを現実に引き戻すに十分だった。


◆ ◆ ◆


 三人のお茶会の片付けをしていたセバスチャンは現れたザラに対し、鋭い目を向けていた。


「ザラ、ルルティナ様から神託がありました」

「奇遇ですね。私もです」


 見た目は格式高い使用人の二人。しかし。


「ふふ、久しぶりですね……お嬢様が生まれた時依頼ですか」

「久しぶりに血の禊ができそうだ」


 獰猛な顔で笑みを作る様子は肉食獣が如く。


「らぶらぶ」

「らぶらぶ」


 リズやサンが聞いていたら二度見しそうな腑抜けた言葉を至極真面目に唱えながら二人は歩き出す。


「全てはお嬢様の幸せのため」

「ええ、天誅です。全ては天誅です」


◆ ◆ ◆


〈……なんか寒気がするわねぇ〉


 相変わらずルーナに無視されているオネエは一人呟く。ミアが首を傾げた。


「そうですか? 今日はいい天気ですけど」

「うんうん! どこからか不審者が降ってきてもおかしくないお日柄だね! いい日和!」


 聞き慣れない軽薄な青年の声。それは女子の輪に溶け込むように突然現れ。三人が囲んでいたテーブルの上には細身の黒装束の青年が座り込んでいた。


「……っ!?」

〈アンタ何者よ!〉


 ルーナはすかさず魔法を発動する。だが。


「お嬢様には指一本触れるつもりないから安心してね! 俺の狙いはこっち」


 目元以外の全てを黒い布で隠した黒装束の青年はいつの間にかミアの背後にいた。そして彼女の首に手刀を入れ、気絶した少女を抱えあげる。


「ミア!」

「えーっと……そうそう! この子を返してほしかったらラシレンの丘においで」


 いくら華奢な少女とはいえ、気絶した人間を抱えたまま動くのは大変なはずなのに、彼は軽々とミアを横抱きにして走り出す。追いかけようとしたルーナだったが、その姿は不意に途中で掻き消えた。まるで神隠しされたかのように。


「ど、どうしましょう……?」

「早くミアを取り返さなくては」


 貴族の子女にとって誘拐は将来に暗い影を落とす。令嬢ならばそれこそ純潔を疑われ、婚約破棄されかねないほどに。


「……オネエサン、未来にこの展開はありましたか?」

〈子兎ちゃん……!〉


 ようやく話しかけてくれた。そんな喜びもつかの間、すぐにオネエは気まずそうに呟く。


〈ミア・ベネット誘拐は初めてよ。ただ……相手の男、あれには一応心当たりはあるわ〉

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