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お邪魔虫はお呼びじゃないの!

 数日後。

 ルーナ達はげんなりした表情を浮かべていた。


「奇遇だな」

「申し訳ない……俺では、殿下を、止められなかった……!」

〈しっしっしっ! お邪魔虫はお呼びじゃないの! 巣に帰りなさい!〉


 ハザマ村に向かう街道を走っていると不意に現れたのは王族がお忍びの際に使う馬車。紋章がついていなくとも王太子妃教育を受けていたルーナはその存在を知っていたし、実物を見たこともあった。とはいえ目の前に現れるまで気配を感じられなかったのは恐らく中に隠蔽系統の魔法を使う護衛が乗り込んでいたのだろう。ともかくその中から現れたのはやたら胡散臭い笑みを浮かべるアレクサンダーと、死んだ目で打ちひしがれているブレイクだった。


「……殿下、我が領に事前にお越しいただくという通達はされましたか?」

「わざとしてないな。抜き打ち視察というやつだ。ちなみにこの後、ブレイクの所にも押しかけるつもりだ。視察だからな」


 それにしてはやたら人選が偏っている気がする。つまり、そういう事なのだろう。大切な時期に何をしているのだろうか。ルーナは頭を抱えたくなった。


「そもそもなんで私達が視察に出るというのを知っていたのですか……?」

「トレイが話してくれたぞ?」

「その代わりに殿下、邪魔しに行ったら次は半殺しにする、と五回ほど叩きのめされていたが。人間って空を飛べるものなのだな」

〈マイルドに言ってるけど、ボコボコにされたってことよね……兄兎ちゃん、よく辺境に左遷させられてないわねぇ……〉


 なんでもないように首を傾げるアレクサンダーだが、遠い目をしているブレイクの話から推測するにトレイとの戦闘訓練で相当やりたい放題をされたらしい。


「嗚呼、安心してくれ。セレスティアの別邸に押しかけるつもりは毛頭ない。迷惑になるだろう? だから既にブレイクが村近隣の宿を手配してくれている」


 そして彼は見当違いな配慮をしていた。だが前回と違って相手の都合を一応は考えていたらしい。だから怒るに怒れず、ルーナは言葉を飲み込む。と、ルーナの後ろに隠れたミアがじとりとした目でアレキサンダーを睨む。


「……殿下、お泊まり会の邪魔をしたら野暮王子って噂流しますよ」

「事前に言ってくれるなんて優しいな。古狸共にもその可愛げの欠片があればいいのに」

〈や、野暮王子……恐るべし、ミア・ベネット〉


 だいぶ不敬な気がするのだが、本人が面白がっているのだから咎める必要は無いのだろうか。真面目にルーナが困っていると、ブレイクがじっとこちらを見ていることに気付いた。


「ブレイク様、何か?」

「いや……私服も可愛いな、と」


 次の瞬間。


〈よう言ったぁぁぁ!! ブレイク・オーガスタ! 百点満点!! 彼氏力がカンストしてるわぁ!!〉


 サンの拍手喝采が脳裏で大音量で響き渡った。かなりの音量に思わず顔が引き攣る。


〈相手の普段と違う装いをさりげなく、でもキチンと褒められるのはポイントが高いわァ!! ね、本当に結婚相手、ブレイクにしておかない?〉

「それは困る」


 テンションが高いオネエの言葉を遮るように呟いたのはアレクサンダーだった。あれ、と思い、アレクサンダーを見れば、彼は珍しくムスッとした表情を浮かべていた。


「ブレイク、どうして婚約者の私より先にルーナを褒めるんだ」

「あっ、申し訳ありません、殿下」


 だが、それはサンに対しての抗議ではなく、ブレイクへのそれだったようだ。気のせいか、と思いつつ、ルーナは黙り込んでいるリズに意識を向ける。そして絶句した。


「売れる……これは売れる……!」


 いつの間に取り出していたのだろうか、拗ね顔のアレクサンダーと焦ったブレイクを写生しているリズの目は爛々と光っていた。


「あの、リズさん?」

「あっ、すいません。あの二人の組み合わせって今王都でも人気で。本人の株は大暴落してるのに面白いですよねぇ」

〈それって、びーでえるな方向ってことよね!? ちょっと待って、グリニッジの辣腕娘ってそういう趣味趣向だったってこと!? しかも絵、ウマっ!? どうしましょう、子兎ちゃん、オネエ、ちょっと理解が追いついてないわ!〉


 どうしてだろうか、リズの発言の意味が分からない。異国の言葉でないというのに。そんな若者達を御者をしていたセバスチャンは生温かい目で見ていた。


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