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オネエブチ切れ五秒前!

 今や教室の中はルーナに同情する者ばかりになっていた。先程の奇行もついに精神的に限界が来たのだと思えば納得出来る、といった風に。普段は感情の起伏が少ないとはいえ落ち着いているからこそ、その差は顕著であった。たとえルーナに対し思うところがある者がいたとしてもそれ以上に今日一日でこの学園の王族達は自らの言動で株を下げすぎた。


「イザベラ様、その辺でお口を閉じられた方がよろしいのでは?」


 ルーナは淡々と告げる。彼女としてはイザベラを怒らせるつもりは毛頭ない。だが、これ以上は王族に対して不都合だと判断したから、そう助言したつもりだった。


「ーールーナ、それはイザベラへの侮辱か?」


 そう、自身も王族である男だけはそう捉えなかった。タイミング悪く教室に戻ってきたアレクサンダーの表情は険しい。


「経緯は分からないが……イザベラに物申しているように聞こえた。間違いないか」

〈出たわねっ、この腐れピーマン! 最初から聞いてないなら口出しするんじゃないわよっ!〉


 サンの機嫌が一気に悪くなるのが分かる。形勢逆転と見たのか、イザベラはわざとらしく顔を歪め、泣き出しそうな表情でアレクサンダーに縋り付く。


「殿下っ、ルーナ様が、ルーナ様が、王族を蔑ろにするのですっ」

「……どういうことだ、ルーナ」


 叱咤するかのように距離を詰めてくるアレクサンダーにルーナは失望する。彼の目は普段理不尽にルーナを叱ってくる教育係達と同じ目をしていた。先程本当に彼女のことを思っての叱責を受けたばかりであるがために余計に比較が容易で、だからこそルーナの気持ちは鬱々とした。


「殿下」

「言っておくが言い訳なら聞くつもりは無い」

〈はぁぁ!? なにこいつ!? 最初からこっちが悪いって決めつけてるじゃないのよぉ! このモラハラ亭主関白! オネエブチ切れ五秒前!〉


 人間とは自分が混乱する場面で他の者が怒っていたりするとかえって冷静になるものだ。ルーナもそうだった。


「……殿下、何を言おうと私の言葉が信じられないなら、最初から他の人に聞いてくださいませ。もう、私は、全てに疲れましたわ」


 その結果、ルーナが選んだのは拒絶だ。

 理解も何ももう求めるつもりはない。いくら王太子妃候補として感情を律しても、苦しみを耐えても、限度がある。


〈子兎ちゃん……〉

「私は何をされても許される人形では無いのです」

〈言い過ぎよっ! それにアレクサンダーにその言葉は〉


 決裂してもかまわない。婚約破棄をされても死にはしない。だって未来と違って犯罪行為はしていないのだから。怒鳴られるか、罵倒されるか。もうどうにでもなれ、と思っていたルーナの予想に反し、アレクサンダーは黙り込んだ。というよりむしろ。


「君が、人形だって……?」

〈あっ……やばいわ、子兎ちゃん、無自覚だろうけどあんた、ピーマン王子の地雷踏み抜いたわ〉


 全てが信じられない、酷いことを言われたとばかりに表情が抜け落ち、魅力的なテノールが震える。それはまるで子供が叱られた時のそれのようで、思わずルーナは息を飲む。

 だが視線が自分に集まってるのに気付いたのか、すぐにアレクサンダーは渋い表情に戻り、そして落ち着こうとするかのように咳払いをした。


「……どうやら私は軽率に判断を下そうとしたようだ。後できちんと話を聞かせてくれ」

「殿下!? どうしてですか!? あの女は」

「イザベラ、少し黙ってくれ……時間を取らせて済まないが、頼む」


 様子がおかしいアレクサンダーにイザベラが驚いたように取縋る。だが、彼の反応は芳しくなかった。どうして、と目を見開いていたイザベラだったが、すぐにルーナを睨み始める。だが、ルーナを守るようにブレイクが前に立ち、それが届くことは無かった。


「……殿下、差し出がましいとは思いますが、話し合いの際、第三者として私とミア・ベネット嬢も同席させてください」

「……いいだろう。ミア・ベネットの正義感の強さは先程思い知らされたばかりだからな」


 ちょうど教室のドアが開く。入ってきた教師はただならぬ空気に一瞬たじろぐも皆に着席をうながした。


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