映画を慰霊にして
なろうラジオへの応募作品です。
僕の母は綺麗な人だった『らしい』。
僕には母の記憶が無い、幼い頃に母は病気で死んだから。だから母の記憶が曖昧なのだ。
母は最も輝いていた時期に僕を産んだ。
そして程なくして他界した。
僕は母に手を握られて母の仕事場によく行った。そんな曖昧な記憶だけが記憶にある。だけど肝心な母との思い出は存在しない。
僕の母は綺麗な人だった『らしい』。
母が生前お世話になった仕事関係の人がよく呟いていた。今でもたまに会ってはそう呟く。
僕の記憶にないソレが僕にとっての自慢だった。
だって誰もが母を褒めてくれるから。
人は他界した人を悪く言わない、正確には言えないのだ。特に早死にした人はその美しさが他人の心に刻まれるから。
美しさを残して死んだ人を悪く言う人なんていない。言えないのだ。
若くして死んでしまえばその神々しさだけが残された人の心に残るから。刻まれた記憶は繰り返す様に呟きになって人々に伝わっていく。
僕の母は綺麗な人だった『らしい』。
僕は今日、母の美しさを思い出すためにここに足を運んだ。
映画館、無論映画を上映する施設だ。
母は女優だったから。今日は母の命日。メディアが母の死後十年を弔うために母が主演した代表作の映画を全国の映画館で放映してくれるらしい。
映画館、無論映画を上映する施設だ。
ここが誰もが美しかったと言う母との再会の場所であり母の棺桶だ。
母さん、僕は今日、誰もが自慢するアナタの美しさを心に焼き付けます。
そして報告します。
僕はアナタと同い年になったよ。
僕はアナタが死んだ年齢にまで元気に育ちました。そしてアナタと同じように子供の手を握って仕事場に訪れた。
映画館、無論映画を上映する施設だ。
ここが今日の僕の職場です。僕は美しいアナタを追いかけてようやく俳優になりました。母の息子として上映前に挨拶をしてくれと依頼されたのだ。
映画館の前に貼り出されたあなたのポスターを位牌にしてアナタを弔おう。
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