闘いのプロローグ
「やぁ、こんなに暑い中ご苦労さんだな。雷風隊の皆さん」
ダストはここが戦場であることさえ忘れたかの役に気さくに話しかけた。ダストとしては、一時足止めさえすれば良いので少しでも時間を稼ぎたいと言う思いがあっての行動だろう。
「その胸に付けた勲章から察するに、あなたがここの団長と言う事でいいかな?」
雷風隊隊長のグラッドが話しかけて来た。
「その通りだ。俺の名前はクライス。この団の団長さ」
「しかし、団長と言うがあなた一人のようだな」
「団員なら全員逃したよ。アンタらだけなら俺一人で十分だからな」
グラッドの顔が一瞬だけダストを睨みつけた。一人で十分と言われた事がよほどムカついたらしい。ダストはそれを見逃さなかった。
「しかしあれだな。雷装のグラッドと言われ恐れられているそうだが、あまり強く見えないな」
ダストは期待はずれだと言わんばかりの顔をしていた。グラッドは、またダストを睨みつけた。今度はもう敵意を隠そうともしなかった。
「あなたはたった一人で私たちに勝てるとでもいいたいのですか」
「勝てるって訳じゃ無い。負けるビジョンが見えないだけだ」
その瞬間、グラッドは自身の体に雷を纏い、音速を超えた。そして拳はダストの顔に向けて振るった。
「おいおい、仮にも隊長が怒りで我を忘れても良いのか?」
「な、何!」
その拳は空を切っていた。グラッドは拳より剣の方が得意だが、スピードは何ら変わらない。しかしダストはその拳を避けた。それはグラッドと同等いや、上のスピードを持っていると言う事だ。
(まさか、今までの発言はハッタリではなく本心からの言葉というのか⁈)
グラッドは、目の前にいるただの男にしか見えないものに恐怖に近い感情を覚えた。思わず距離を取った。いや、取ってしまった。魔法を覚え、戦場に出てから長らく味わなかったプレッシャーをただの男に感じ、そして下がってしまったという屈辱にグラッドのプライドが傷つかないわけもなかった。
「雷槍」
グラッドの周りに、五つの雷で出来た槍が現れた。
(なるほどな。雷装のグラッドの強さは、魔術で雷を纏い、魔法で力で底上げするスタイルか。それにたった一小節でさらにあんな短いのに魔法として十分な威力があるように見えるな、大陸最強の隊長として相応しい才能を持っているようだ)
そんなふうにダストが考えている間もグラッドの攻撃は止まない。さらにどんどんグラッドのスピードもパワーも上がっていた。ダストは避け続けていた。誰がみても持久戦はグラッドの方が有利に見えた。
「すまない、評価を改めよう。グラッド、お前は強い」
「そうかよ。しかしアンタは見たところ魔力量が一般人に毛が生えたぐらいしか無いようだな」
グラッドは自身のスキル『魔力眼』でダストの保有魔力を見た。さらにあなたなどと言わずアンタと言っている所は王族ではなくただ一人の戦士として闘いに臨んでいるというところだろうか。
「シャドウダイバー、起動」
ダストの左手に黒く禍々しい小手が現れた。
「さぁ、第二ラウンドと行こうか」
まだ約束の一時間まで五十七分残っている。