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「じゃあ、僕はこれでいったん失礼するよ。晩さん会の準備をしなくちゃね」
クロノスが催す晩さん会にはまだ時間があるということで、俺たちはディアの父親に会いにいった。
吹き抜けのロビーの階段を上がって二階へ行き、長い廊下を歩いてつき当たりの扉へとたどり着く。
ここがディアの父親の寝室だった。
ディアが扉をノックする。
「お父さま。クローディアです」
がちゃり。
扉が開く。扉を開けてくれたメイドが俺たちにお辞儀をした。
俺たちは寝室へと入る。
寝室の窓際に大きなベッドあり、そこに小さな老人がふせっていた。
老人は痩せこけており、顔色も悪かった。
この老人がディアの父親――パスティア卿。
老人と呼ぶにはまだ早い年齢かもしれないが、病魔に侵されているせいか、顔には深いしわが刻まれ、髪はすべて白髪。だいぶ年老いた外見をしていた。
ディアの姿を認めた途端、沈んでいたパスティア卿の表情がぱあっと明るくなった。
「おお……クローディア! 帰ってきたのだな!」
パスティア卿はメイドの手を借りて身体を起こす。
クローディアはパスティア卿のとなりまでいくと、彼の身体をやさしく抱きしめた。
「お父さま。申し訳ありませんでした。お一人にさせてしまって」
「よいのだ。お前が無事ならばそれで」
パスティア卿の頬に涙が滑る。
ディアの目からも涙がこぼれ落ちた。
「私は日々、お前の身を案じておった。クロノスの手先にやられはしないかと」
「この方々がわたくしを助けてくださったのです」
ディアが俺たちを紹介する。
「アッシュくん。スセリくん。プリシラくん。娘を助けてくれたこと、心より感謝する。望みがあるのならなんでも言ってくれたまえ」
「パスティア卿よ。望みがあるのはおぬしのほうではないかの」
スセリがそう言うと、パスティア卿は「そうであった」と真剣な顔つきになった。
「そなたらがクローディアと共にここに来たということは、ガルディア家の現状を知っているのであろうな。この家は今、クロノスの手に落ちようとしている」
「そうはさせたくないのじゃな?」
「クロノスは目的のためならば手段を択ばぬ残酷な人間に育ってしまった。これは父である私の責任に他ならない。しかし今、私にはクロノスを止める力は残っていない。ランフォード家の者たちよ。どうかクローディアに助力して、クロノスを倒してほしい」
「はい。まかせてください」
それからディアはポーチから二つの宝珠を取り出した。
蒼の宝珠、セオソフィー。
紅の宝珠、フィロソフィー。
家督継承者の証である宝珠が揃っていることにパスティア卿は驚愕した。
「フィロソフィーのみならず、クロノスの手に渡っていたセオソフィーまであるとは! どうやってクロノスから取り戻したのだ」
「ええっと……」
どう説明すべきか悩むディア。
「セヴリーヌという方がクロノスから取り返してくれたのです」
「セヴリーヌ! あの不老の娘セヴリーヌか! どうやって知り合ったのだ」
「いろいろと――」
「いろいろとあったのじゃよ」
「そうか……。とにかく、継承者の証が二つともお前の手にあるのなら、ひとまずは安心だ」




