14-3
馬車はガルディア家の屋敷に到着した。
目の前には巨大な鉄の門。
槍を持った二人の門番がそこを守っている。
馬車から降りる俺とプリシラ、スセリ、ディア。
門番が俺たちに槍を向けるが、ディアの姿を認めるなり、慌てて槍を収めた。
「も、もしやクローディアさまですか!?」
「そうです。門を開けてください」
「はっ、はい! 開門ー!」
門番が大きな声を上げる。
鉄の門が軋むを音を立てながらゆっくりと左右に開いた。
門番がディアに向かってうやうやしげに頭を下げる。
「クローディアさま。とうとう帰ってこられたのですね」
「心配をかけましたね」
「我々は信じていました。クローディアさまは必ず帰ってくると」
どうやら彼らはディアの味方のようだ。
これは案外、分の悪い戦いではなさそうだ。
門をくぐり、長いアプローチを通って玄関の前までたどり着く。
そこも武器を持った兵士がいた。彼らもディアが帰ってきたことを喜び、扉を開けてくれた。
屋敷の中に入る。
ロビーは吹き抜けになっており、高い天井にはシャンデリアが吊るされていた。
古い屋敷だ。
中はしんと静まり返っている。
厳かな雰囲気にのまれたプリシラが俺の服の裾をぎゅっと握ってきた。
そのとき、正面の扉が開かれた。
「やあやあ! お帰り。クローディア姉さん」
そんな声が屋敷に響いた。
扉の向こうから現れたのは、クロワッサンみたいな奇妙な髪型をした青年だった。
「こやつが……」
「クロノス・ガルディア……!」
青年が「いかにも」とニヤリと笑う。
「僕がクロノス・ガルディアさ」
こいつがクロノス……。
ガルディア家の当主になるため兄たちを皆殺しにし、ディアをも始末しようと暗殺者を差し向けた張本人。
クロノスは依然としてニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
嫌悪感を抱く雰囲気を漂わせている。
クロワッサン状に固めた奇妙な髪型。不健康な青白い肌。見下すようなニヤニヤ笑い――吸血鬼のような印象を俺は抱いた。
「心配したんだよ、姉さん。あのパーティーの日、いきなり行方をくらましたんだもの」
「なにを白々しい」
「おやおやおや。もしかして機嫌が悪いのかい?」
あからさまな敵意を向けるディア。
そんな姉をおちょくるような態度をとっているクロノス。
クロノスの視線がディアから俺へと向けられる。
「えーっと、キミがランフォード家のご令息だね」
「アッシュだ」
「アッシュくん。初めまして。ランフォード家といえば優秀な召喚術師を多数輩出する名門。友達になれてうれしいよ」
手を差し伸べてくるクロノス。
俺はあえてそれに応じ、クロノスと握手を交わした。
友達になる気はこれっぽっちもなかったが。
「ん……。こいつ、半獣か」
クロノスがプリシラを見て眉をしかめる。
プリシラがびくりと身をすくませ、俺の背中に隠れる。
「アッシュくーん。そばに置く従者はちゃーんと選ぶべきだよ。奴隷の身分を連れてくるなんて。家が獣臭くなる」
「プリシラは俺の大切な家族だ」
「あははっ。そうかい」
クロノスは一笑に付した。
「気にするな。プリシラ」
俺はプリシラの手を握る。
プリシラも俺の手を握り返してきた。
「んで、そっちの銀髪のガキは? セヴリーヌはいないの?」
「ワシはスセリ。アッシュのひいひいひいひいおばあちゃんなのじゃ」
「はあ?」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
奇妙な笑いかたをするスセリを、クロノスはうさんくさそうに見ていた。




