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それから俺たちは馬車を使い、ガルディア家へと向かった。
ガルディア家が治める領地はケルタスから北にあるパスティアという土地。
固い土の上に針葉樹林が広がる、広大な大地だ。
馬車は針葉樹林の中に引かれた道を走っている。
窓から見えるのは、生い茂る木々ばかり。
樹林はパスティアの大部分を覆っていて、一見すれば自然豊かに見える。
しかし、実際のところ土地は養分が少なく、作物を実らせるには厳しい。生い茂る針葉樹も、どれもやせ細っていて木材としての価値は低いという。
それでもこのパスティアを任されているガルディア家は、アークトゥルスでは有数の貴族である。
俺の生まれたランフォード家や、マリアのルミエール家をもしのぐ力を持っている。権力も、武力も。ひとたび戦争になれば、周辺の諸侯をまとめて相手をしても負けることはない。
そうスセリとディアが説明してくれた。
俺とプリシラは二人が交互に話すのをじっと聞いていたのであった。
「ところで、セヴリーヌさまは連れてこなくてよかったのでしょうか」
クロノスの招待状にはセヴリーヌの名前も記されていた。
だが、馬車には俺たち四人しか乗っていない。
スセリが「あやつは呼んでも来ないじゃろう」と、あえて呼ばなかったのだ。
それには俺も同意した。
クロノスがセヴリーヌを招待したのは、彼女が持っていた宝珠セオソフィーを取り返すためだろう。
そうと知っていながらあの子を危険に巻き込むわけにはいかない。
セオソフィーは今、対となる紅の宝珠フィロソフィーと共にディアが持っている。
二つはガルディア家当主に受け継がれてきた家宝。
彼女が持つべきものだ。
「ガルディア家についたら、まずどうする?」
「我が父と会いましょう。父は病にふせっていますが、今もなおガルディア家で最も権力を持っております。クロノスを退けるため、父を味方につけましょう」
「味方してくれるのじゃな?」
「ガルディア家から逃げるとき、父はわたくしにフィロソフィーを託してくださいました。クロノスを打倒するため、わたくしが家に帰ってくるのを信じてくださっています」
ディアが俺の手を取る。
「アッシュさん。あなたと出会えなければ、わたくしは父を裏切るところでした」
「運命とやらに感謝するのじゃぞ」
とスセリが言う。
「俺たちでガルディア家を取り戻そうな」
「はいっ」
馬車が針葉樹林を抜けた。
薄暗い樹林から出ると、太陽の光が馬車の中に差し込んできた。
目を細める。
スセリが馬車の窓を下ろし、身を乗り出す。
「おお、あれがそうか!」
俺も反対側の窓を下ろして顔を外に出す。
馬車が走る先には屋敷があった。
深い深い針葉樹林の中に建つ、黒く古めかしい大きな屋敷。
それが由緒正しきガルディア家だった。




