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クラリッサさんは一通の封筒を持っていた。
「さっき店の外に出たら、変な格好をした人にこれを渡されたのよ」
「変な格好?」
「丈の長いローブを着て、フードで顔を隠した格好よ」
俺たちが同時に立ち上がる。
クロノス・ガルディアの暗殺者だ!
「あて名はあなたよ。ディアちゃん」
緊張した顔でクラリッサさんから封筒を受け取るディア。
あて名はクローディア・ガルディア。
そして送り主は――クロノス・ガルディア。
ディアはクラリッサさんから借りたペーパーナイフで、慎重な手つきで封を切る。
そして封筒の中から一通の手紙を取り出した。
手紙を開くディア。
俺は彼女の肩越しに手紙を覗く。
手紙の内容は――クロノスからの招待状だった。
敬愛すべき姉をぜひとも食事に招きたいという内容だった。
「ロコツな罠だな」
俺はそう言った。
「仲直りのお手紙ではないのですか?」
「クロノスはそのような男ではありません」
プリシラの質問にディアはそう険しい口調で答えた。
他の兄たちと同様、ディアを誘い出して始末するつもりなのだろう。
この誘いに乗れば、間違いなくディアは暗殺される。
「いや、これには裏がありそうじゃぞ」
スセリがそう言う。
「クロノスからの手紙によると、食事にはセヴリーヌとアッシュも招待されておるのじゃ」
「厄介な人間をまとめて始末するもつりなんじゃないか」
「クロノスの狙いはディアと、セヴリーヌの持っていたセオソフィーじゃ。アッシュまで呼ぶ必要はあるまい」
「いずれにせよ、クロノスとはいつか相まみえねばならない運命です」
手紙をたたんで封筒にしまうディア。
「アッシュさん。スセリさん。プリシラさん。わたくしと共にクロノスのところへ行ってくれませんか」
ディアの言うとおり、ガルディア家の家督を継ぐにはクロノスと対決しなければならない。
ならばそのときが今か。
今、この誘いに乗れば、クロノスは自分の罠にディアがかかったと慢心して油断を生むかもしれない。そこをつけばクロノスを倒すことができる。これはまたとない好機だった。
「クロノスのもとへ行こう。そしてガルディア家を取り戻そう」
「微力ながら、お力添えいたしますっ」
「面白くなってきたのじゃ」
俺たちの意見は一致した。
「ありがとうございます」
ディアはポーチから紅の宝珠フィロソフィーを取り出し、決意を表すかのようにじっと見つめた。
フィロソフィーは中心に宿した赤い光を静かに鼓動させていた。
「あなたたち。なにか危ないことをしにいくのね」
クラリッサさんが心配そうにしている。
俺はクラリッサさんを心配させまいとにこりと笑みをつくった。
「だいじょうぶです。すぐに帰ってきますから。宿はこれからも使わせてもらいます」
「そう。ならよしっ」
クラリッサさんが俺の背中をぽんぽんと叩く。
「ディアちゃんのこと、守ってあげるのよ」
「もちろんです」
「それと、ちゃんと帰ってくること。アッシュくんたちの帰る場所はこの『夏のクジラ亭』なんだから」




