13-7
「まあ、いい。待っていろ」
そう言うとヴィットリオさんはまた山盛りのサンドイッチを作ってきてくれた。
セヴリーヌがいなくなったことで、俺たちはようやくまともに朝食を食べることができたのであった。
俺もプリシラもスセリもディアも、大満足だった。
「おいしかったですっ。ヴィットリオさまっ」
「そうか」
相変わらずそっけない返事のヴィットリオさん。
プリシラに「おいしい」と褒められても、獲物を狙う鷹のような表情を少しも変えない。背の高い彼は上からプリシラを見下ろすだけ。
そんなヴィットリオさんの眼光にたじろぐプリシラは「あ、あはは……」と笑顔を引きつらせていた。
「それにしてもヴィットリオさん。これだけの料理の腕前があるのでしたら、繁華街に店を構える高級料理店や貴族の専属料理人として声がかかるのでは」
「ああ。ときどきあるな」
ディアの質問にヴィットリオさんはつまらなそうに答えた。
やはりそうか。
これほどのごちそうを作れるのだから当然だ。
「だが、すべて断っている」
「どうしてですか?」
「ここが俺の居場所だからだ」
この宿屋『夏のクジラ亭』は妻のクラリッサさんといっしょにはじめた店だとヴィットリオさんは言う。
店をはじめたころはまだクラリッサさんとは恋人未満の友達関係で、店をやっていくうちに恋愛関係に発展し、最終的には結婚したのだという。
そんな思い出深い店だから、ヴィットリオさんはこの『夏のクジラ亭』で料理を作ることにこだわっているのであった。
「ステキなお話ですーっ」
プリシラが目をキラキラ輝かせている。
そしてぐい、とヴィットリオさんに詰め寄る。
「プロポーズしたのはヴィットリオさまからですか? クラリッサさまになんて言ったのですか?」
「忘れた」
ヴィットリオさんはきびすを返し、俺たちの前から離れて厨房に行ってしまった。
恥ずかしくなって逃げたのだろう。
それにしても「忘れた」なんて、ヴィットリさんらしい。
俺はくすりと小さく笑ってしまった。
「自分の居場所、か……」
ディアがひとりごつ。
自分の居場所。
それは今の彼女にとって重大な意味のある言葉だった。
彼女は今、自分の居場所を取り戻そうとするさなかだったから。
「さてさて、ワシらの居場所はどこになるのやら」
スセリが手を頭の後ろにまわした格好でそう言った。
俺にとっても大事な言葉だな。
俺には自分の居場所はまだない。
このまま旅を続けて、見つけられるだろうか。
「ちょっと! アッシュくん!」
そのときだった。廊下からクラリッサさんが小走りに駆け寄ってきたのは。
クラリッサさんにいつもの笑顔はなく、不安げな面持ちをしている。
なにかよくないことの兆しをその表情から察した。
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