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翌朝。
俺たちは朝食を食べに食堂に集まっていた。
ヴィットリオさんの今日の料理はサンドイッチ。
しっとりとしたパンとカリカリに焼けたベーコンが絶妙な食感を生み出している。
薄く切ったみずみずしいトマトとチーズの相性も抜群だ。
「うまい! うまいぞっ」
次々とサンドイッチを手に取っていくセヴリーヌ。
「トマトはわたしが切ったんですよ、アッシュさまっ」
俺の隣でプリシラが言う。
本人は決して口にしないが、俺になにかを期待している。
「こんなに薄くきれいに切れるなんて、プリシラは包丁の扱いが上手いんだな」
期待に応えて俺が頭をなでると、彼女は「てへへー」とよろこんだ。
「アッシュさまにほめられちゃいました」
「わたくしも厨房でお手伝いしましょうか……」
そんなプリシラをうらやましげに見ながらディアがつぶやいた。
も、もしかして、ディアも俺に褒められたいのか……?
「そういえばアッシュよ。どうだったのじゃ」
サンドイッチ片手にスセリが尋ねてくる。
「昨夜のディアとのデートは」
「ゴホッ! ゴホッ」
俺はサンドイッチをのどに詰まらせてせき込む。
スセリがニヤニヤと笑みを浮かべている。
ディアは頬を赤く染め、口元をふにゃふにゃさせながら下を向いている。
プリシラはぽかん、と口を開けて呆けている。
セヴリーヌはサンドイッチに夢中。
「キスはしたのか? したのじゃな?」
「してない」
俺はあえてそっけなく答える。
そんな俺の顔を、スセリは上目遣いで覗き込んでくる。
「年頃の男女が夜な夜な海へ行って、キスのひとつもしないわけあるまい」
「ア、アッシュさま……。ディアさまとキスをしたのですか!?」
「してないったらしてない」
「そ、そうですよね。うっかり赤ちゃんができたら大変ですからねっ」
胸をなでおろすプリシラ。
彼女はなにやら大きな勘違いしているが、彼女にはそのまま純粋でいてもらいたいため、訂正はしなかった。
「ヴィットリオー。サンドイッチもうなくなったぞー」
セヴリーヌが厨房に向かって叫んだ。
「しかし、アッシュさんはわたくしとの結婚を約束してくださいました」
「ええーっ!?」
結婚を考える約束――だぞ。ディアよ。
「け、けけけけ結婚ですかっ!」
言葉が足りなかったせいでプリシラが動揺している。
うつむいた顔に笑みを浮かべているディア。
も、もしかして……わざと?
「やるのう、アッシュよ」
スセリはぜったいわかってるな……。
「『稀代の魔術師』の後継者である者をガルディア家に迎えるのは、とても光栄なことです」
「で、ですが、アッシュさまには……」
そこで口ごもるプリシラ。
ディアの言葉にかなりうろたえている。
「アッシュさまにはわた……わたし……」
最後まで言い切れていない。
「アッシュさまには……わた……」
どうしても最後まで言い切れなかったプリシラは、ついにこう叫んだ。
「アッシュさまにはマリアさまがいるじゃないですかーっ!」




