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13-4

 翌朝。

 俺たちは朝食を食べに食堂に集まっていた。

 ヴィットリオさんの今日の料理はサンドイッチ。


 しっとりとしたパンとカリカリに焼けたベーコンが絶妙な食感を生み出している。

 薄く切ったみずみずしいトマトとチーズの相性も抜群だ。

 

「うまい! うまいぞっ」


 次々とサンドイッチを手に取っていくセヴリーヌ。


「トマトはわたしが切ったんですよ、アッシュさまっ」


 俺の隣でプリシラが言う。

 本人は決して口にしないが、俺になにかを期待している。


「こんなに薄くきれいに切れるなんて、プリシラは包丁の扱いが上手いんだな」


 期待に応えて俺が頭をなでると、彼女は「てへへー」とよろこんだ。


「アッシュさまにほめられちゃいました」

「わたくしも厨房でお手伝いしましょうか……」


 そんなプリシラをうらやましげに見ながらディアがつぶやいた。

 も、もしかして、ディアも俺に褒められたいのか……?


「そういえばアッシュよ。どうだったのじゃ」


 サンドイッチ片手にスセリが尋ねてくる。


「昨夜のディアとのデートは」

「ゴホッ! ゴホッ」


 俺はサンドイッチをのどに詰まらせてせき込む。

 スセリがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 ディアは頬を赤く染め、口元をふにゃふにゃさせながら下を向いている。

 プリシラはぽかん、と口を開けて呆けている。

 セヴリーヌはサンドイッチに夢中。


「キスはしたのか? したのじゃな?」

「してない」


 俺はあえてそっけなく答える。

 そんな俺の顔を、スセリは上目遣いで覗き込んでくる。


「年頃の男女が夜な夜な海へ行って、キスのひとつもしないわけあるまい」

「ア、アッシュさま……。ディアさまとキスをしたのですか!?」

「してないったらしてない」

「そ、そうですよね。うっかり赤ちゃんができたら大変ですからねっ」


 胸をなでおろすプリシラ。

 彼女はなにやら大きな勘違いしているが、彼女にはそのまま純粋でいてもらいたいため、訂正はしなかった。


「ヴィットリオー。サンドイッチもうなくなったぞー」


 セヴリーヌが厨房に向かって叫んだ。


「しかし、アッシュさんはわたくしとの結婚を約束してくださいました」

「ええーっ!?」


 結婚を考える約束――だぞ。ディアよ。


「け、けけけけ結婚ですかっ!」


 言葉が足りなかったせいでプリシラが動揺している。

 うつむいた顔に笑みを浮かべているディア。

 も、もしかして……わざと?


「やるのう、アッシュよ」


 スセリはぜったいわかってるな……。


「『稀代の魔術師』の後継者である者をガルディア家に迎えるのは、とても光栄なことです」

「で、ですが、アッシュさまには……」


 そこで口ごもるプリシラ。

 ディアの言葉にかなりうろたえている。


「アッシュさまにはわた……わたし……」


 最後まで言い切れていない。


「アッシュさまには……わた……」


 どうしても最後まで言い切れなかったプリシラは、ついにこう叫んだ。


「アッシュさまにはマリアさまがいるじゃないですかーっ!」

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