表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/842

13-3

 今年で25歳になるということはつまり、プリシラの倍の年齢というわけか……。

 ディアの外見は決して幼いわけではないが、かといって25歳の大人の女性にも見えない。俺と同い年17歳くらいが妥当だろう。


「人としての未熟さが外見に現れているのでしょうね」


 俺の反応を予想していたらしいディアは、そう自虐した。


「ま、まあ、若く見られるのはいいんじゃないか……?」

「若さと未熟は別物だとわたくしは思います。実際、わたくしはまだまだ大人になり切れていないと痛感しています」


 よく考えれば、ディアの年齢は25でおかしくないんだな。家の乗っ取りをたくらむクロノスという四男の弟がいるのだから。仮にディアが17歳だとしたらクロノスは14歳くらいになってしまう。


「ということは、俺たちの中でディアが年長者なんだな」

「年長者はスセリさんかセヴリーヌさんかと」

「スセリはのじゃのじゃ言うだけだし、セヴリーヌは心の年齢は10歳で止まっているし、ディアが一番の大人さ。頼りにさせてもらうぞ――って、これからは敬語を使わなくちゃな」

「も、もう……。アッシュさんたら、からかわないでくださいっ」


 からかったつもりはなかったんだが……。

 いずれにせよ、敬語は使わなくていいらしかった。


「あの、それでわたくし、この年齢ですので……。世間一般の婦女子は結婚している年頃なので……」


 ディアは股の間で両手をもじもじとこすらせながら言う。


「結婚の件、今すぐでなくても構いませんので、考えていただければ……」


 俺はぎょっと目をむく。

 結婚の話は諦めてくれたとばかり思っていた。

 さすがに今のディアは冷静で、俺にのしかかってくるような気配はなかったが。


「あ、ああ……。考えておくよ」

「本当ですかっ。考えていただけるのですね!」


 目を輝かせて急接近してくるディア。

 しまった。うかつな返事をしてしまった。


 興奮した面持ちのディア。

 俺の安易な言葉で彼女を期待させてしまった。

 こうなってはもはや「結婚する気はない」と訂正できない。


「クロノスとの一件が解決した後に、またお返事を聞かせてください」


 波打ち際に寄るディア。

 それから右足を軸にくるりと半回転し、俺のほうを振り向く。

 長い紫の髪がふわりと躍る。


「わたくしの帰る場所が、アッシュさんにとっての帰る場所にもなったらいいな――なんて、思っちゃってますっ」


 そう言ってはにかむ。

 その微笑みは不意をついて俺の心を揺らがせた。


 俺には帰る場所がない。

 なら、ディアと結婚するのも……ありなのか?


 そのとき、俺の心に一人の少女の姿が浮かび上がってきた。

 頭のてっぺんには三角形の獣耳。

 俺を一途に慕ってくれる、けなげな半獣の少女。

 彼女のまぼろしが、スカートのすそを持ち上げて俺に笑顔を向ける。

 その笑顔は俺に罪悪感を芽生えさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ