13-3
今年で25歳になるということはつまり、プリシラの倍の年齢というわけか……。
ディアの外見は決して幼いわけではないが、かといって25歳の大人の女性にも見えない。俺と同い年17歳くらいが妥当だろう。
「人としての未熟さが外見に現れているのでしょうね」
俺の反応を予想していたらしいディアは、そう自虐した。
「ま、まあ、若く見られるのはいいんじゃないか……?」
「若さと未熟は別物だとわたくしは思います。実際、わたくしはまだまだ大人になり切れていないと痛感しています」
よく考えれば、ディアの年齢は25でおかしくないんだな。家の乗っ取りをたくらむクロノスという四男の弟がいるのだから。仮にディアが17歳だとしたらクロノスは14歳くらいになってしまう。
「ということは、俺たちの中でディアが年長者なんだな」
「年長者はスセリさんかセヴリーヌさんかと」
「スセリはのじゃのじゃ言うだけだし、セヴリーヌは心の年齢は10歳で止まっているし、ディアが一番の大人さ。頼りにさせてもらうぞ――って、これからは敬語を使わなくちゃな」
「も、もう……。アッシュさんたら、からかわないでくださいっ」
からかったつもりはなかったんだが……。
いずれにせよ、敬語は使わなくていいらしかった。
「あの、それでわたくし、この年齢ですので……。世間一般の婦女子は結婚している年頃なので……」
ディアは股の間で両手をもじもじとこすらせながら言う。
「結婚の件、今すぐでなくても構いませんので、考えていただければ……」
俺はぎょっと目をむく。
結婚の話は諦めてくれたとばかり思っていた。
さすがに今のディアは冷静で、俺にのしかかってくるような気配はなかったが。
「あ、ああ……。考えておくよ」
「本当ですかっ。考えていただけるのですね!」
目を輝かせて急接近してくるディア。
しまった。うかつな返事をしてしまった。
興奮した面持ちのディア。
俺の安易な言葉で彼女を期待させてしまった。
こうなってはもはや「結婚する気はない」と訂正できない。
「クロノスとの一件が解決した後に、またお返事を聞かせてください」
波打ち際に寄るディア。
それから右足を軸にくるりと半回転し、俺のほうを振り向く。
長い紫の髪がふわりと躍る。
「わたくしの帰る場所が、アッシュさんにとっての帰る場所にもなったらいいな――なんて、思っちゃってますっ」
そう言ってはにかむ。
その微笑みは不意をついて俺の心を揺らがせた。
俺には帰る場所がない。
なら、ディアと結婚するのも……ありなのか?
そのとき、俺の心に一人の少女の姿が浮かび上がってきた。
頭のてっぺんには三角形の獣耳。
俺を一途に慕ってくれる、けなげな半獣の少女。
彼女のまぼろしが、スカートのすそを持ち上げて俺に笑顔を向ける。
その笑顔は俺に罪悪感を芽生えさせた。




