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13-2

「な、なんだってー!?」


 俺は思わず立ち上がってしまった。

 ディアも立ち上がり、俺と鼻が触れ合うほどの距離まで接近してくる。

 興奮する彼女の熱気が伝わってくる。


 俺は数歩後ろに下がる。

 その分だけ詰め寄ってくるディア。


「ちょっ、ちょっと待て! どうしていきなり結婚の話になるんだ!?」

「こ、これは運命なのです! わたくしを二度も助けてくださったアッシュさんこそ、わたくしの夫にふさわしいのです!」


 た、確かにディアを助けたのは事実だが、俺は白馬の王子さまではない。

 ディアはおそらく、クロノスと戦う決意の興奮で冷静な判断ができなくなっているだけだろう。

 とりあえず、彼女を落ちつかせないと……。


「そ、それに、ガルディア家のしきたりにこういうのがあるのです――『己の裸を見た者と結婚せよ』と」


 なんかそれ、前にも聞いたことあるぞ!?


「アッシュさんはわたくしのむ、胸を……裸を見ました。だから結婚すべきなのですっ」


 ぐいぐいと迫ってくるディア。

 先ほどまでとはうって変わり、俺を真っ向から見つめてくる。

 顔は真っ赤。

 そしてその目は真剣そのもの。というか、鬼気迫る勢い。


「わ、わたくしと共にガルディア家を末永く繁栄させていきましょう!」

「落ち着けディア!」

「子供は三人くらいほしいですっ」

「具体的だな!」


 そのとき、俺と彼女の足が絡まり、二人ともその場に倒れてしまった。


 砂浜に仰向けになる俺。

 そんな俺に馬乗りになっているディア。

 興奮で息を荒くしている。

 両脚で俺の身体をがっしりとつかんで立ち上がるのを許さない。


「そ、そうです。子作りです。子作りしましょうっ」


 ディアはブラウスのボタンをプチプチと外しだす。

 その隙間から下着が見える。

 まずい。このままだと本当に一線を越えてしまう……!


「来たれ!」


 破れかぶれに俺はそう叫んだ。

 空中に魔法円が描かれる。

 そしてそこから金属製の鍋が召喚され、ディアの頭に落下した。


 コーンッ。

 鐘を鳴らすような音を立てて彼女の脳天に直撃した。


「……ハッ」


 その衝撃でディアは我に返った。

 冷静さを取り戻した彼女はすぐさま俺の上からどく。

 はだけた服を慌てて直す。


 落ち着いてくれたか……。

 俺は安堵の息をついた。

 まさか自分の召喚術がこんなところで役立つとは……。


「わたくしったら取り乱して……。す、すみません、アッシュさん……」

「落ち着いてくれてなによりだ……」

「わたくしとアッシュさんでは、結婚するには少々年齢が離れていますからね」


 歳の差の問題だったのか……。

 って、年齢……?


「俺は17だが、ディアにはもっと上に見えるのか?」

「そ、そうではありません。わたくしの年齢が、その……」


 そういえばディアの年齢を聞いたことがなかった。

 てっきり俺と同い年くらいだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 ディアは胸の前でもじもじと二本の指を絡め、次に言う言葉をためらっている。

 俺から視線をそらしつつ、彼女はこう言った。


「わたくし、実を言いますと、今年の誕生日で25になります」


 に、にじゅうご!?

 俺よりも圧倒的に年上じゃないか!

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