12-7
ガルディア家当主の証である二つの宝珠。
蒼きセオフィー。
紅きフィロソフィー。
その二つが今、この場にそろった。
「隠していてすみません」
ディアが胸に手をあて、ぎゅっと服を握る。
「ガルディア家から去るとき、病に伏せる父からこのフィロソフィーを託されたのです。父は言っていました。クロノスが当主になれば、遠くない将来、ガルディア家は衰退すると。わたくしこそ正当な継承者だと」
「まあ、おぬしは家督継承順位でも一番じゃからな」
ゆえにクロノスはディアの命を狙っている。
クロノスは自分が当主になるために、継承順位の高い兄たちを謀殺した。
生き残っているのはディアただ一人。
彼女さえいなくなれば、はれてクロノスがガルディア家を継ぐことになる。
クロノスは自分が継承順位一位に『繰り上がる』ため、彼女に刺客を差し向けたのだ。
「わたくしは病に苦しむ父の願いを拒めませんでした。自分にクロノスを退ける力が無いと自覚していながらも、フィロソフィーを受け取ってしまいました」
「ディア。力の有無はともかく、おぬしの本音を聞かせるのじゃ」
「……」
押し黙るディア。
俺とプリシラは固唾をのんで、彼女が言葉を発するのを待っていた。
スセリはにやりと笑いつつ、彼女の迷いが現れた瞳を覗き込んでいる。
セヴリーヌは口の周りをトマトソースで汚しながらパスタを食べている。
「アッシュさん」
ディアが俺のほうを見る。
そしてこう言った。
「ガルディア家を乗っ取ろうとするクロノスを倒してください」
「わかった」
俺は彼女にうなずいてみせた。
「さすがアッシュさまですっ」
プリシラが満面の笑顔になる。
スセリは「ほう」と面白そうな顔をする。
「やけに気前のよい返事じゃの。女の子の前で格好つけたい年頃かの」
そんなふうに俺をからかってくる。
あまりに俺があっさり答えたので、ディアは戸惑っていた。
「よろしいのですか……?」
「だって、ガルディア家はディアの帰る場所だろ」
ディアには帰る場所がある。俺と違って。
俺は帰る場所を自ら捨ててしまったが、彼女はまだそれを取り戻せる。
だから力になってあげたかった。
ディアと俺は似ていたのだ。そういう意味では。
「不肖、このプリシラも力をお貸ししますっ。わたしたちでクロノスをやっつけましょうっ」
プリシラも乗り気だった。
「……ありがとうございますっ」
ディアが家督継承の意思を示した。
つまり、この時点においてセオソフィーとフィロソフィー、二つの宝珠の正当な持ち主は彼女となったのだ。
セヴリーヌがフォークを握った手を止めて顔を上げる。
「ん? よーするに、セオソフィーをクロノスに返さなくてよくなったのか?」
「はい。好きなだけ研究していただいて結構です」
「やったーっ」
セヴリーヌは両手を上げてよろこびを表現した。
ため息をつくスセリ。
「セヴリーヌよ。ワシの新たな身体を手に入れるために力を貸す件は忘れておらんじゃろうな」
「ん? 研究が終わってヒマになったら考えてやるぞ」
パチンッ。
スセリが指を鳴らす。
その瞬間、スセリの手のひらの上に蒼い宝珠――セオソフィーが現れた。
セヴリーヌが「あっ」と声を出してポケットをまさぐる。
彼女のポケットの中に入っていたセオソフィーはスセリのところへ転移したのだ。
「それはアタシのだぞ!」
「ワシに力を貸すと、もう一度ちゃんと約束するのじゃ」
「約束する! 約束するぞ! だから返せっ」
「これをおぬしに渡すのは、ワシの新たな身体を手に入れてからなのじゃ」
「うるさいうるさい! いいから返せーっ」
どうやら二人の関係はスセリが一枚上手らしかった。
というか「返せ」って、セオソフィーはディアの家の物なんだけどな……。
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