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12-6

 それにしても、ややこしいことになったな。

 ガルディア家の家督継承者のディアは弟のクロノス・ガルディアに命を狙われている。

 そのクロノスから、セヴリーヌがガルディア家の家宝セオソフィーを盗んだ。

 そしてディアとセヴリーヌは顔見知りとなった。


 クロノスからすれば、ディアが家督継承を確たるものにするため、セヴリーヌと共謀してセオソフィーを盗んだと疑ってもおかしくない。

 というか、間違いなくそう確信しているだろう。


「セヴリーヌ。セオソフィーをクロノスに返せ」

「返すぞ。研究が終わったらな」

「今すぐ返せ」

「やだよーだっ」


 セヴリーヌはプリシラからセオソフィーをひったくってポケットにしまった。

 プリシラが「でもでもアッシュさま」と俺に言う。


「クロノスって弟さんたちを殺して、ディアさまの命まで狙っている悪いヤツなんですよね。そんなヤツにこの宝珠を渡してもいいのでしょうか」


 そう言われると俺も返答に困る。

 確かにクロノスは悪党だが、ガルディア家の所有物を勝手に持っていっていいわけではない。ディアが家督継承に興味がないのならなおさらだ。

 本当にややこしい事態になってしまった。


「おいしいぞ、このパスタ!」


 事態をややこしくした当の本人はヴィットリオさんのパスタを夢中で食らっている。

 セヴリーヌ一人に食べつくされまいと、スセリもフォークでパスタを巻きだした。


「食べてる場合か。スセリ」

「そう悩むことでもあるまい。この問題をまるっと解決する方法があるではないか」

「な、なに……?」


 スセリがディアを見る。

 そして彼女にフォークの先を向けて言った。


「ディアよ。おぬしがガルディア家の次期当主に名乗り出ればいいのじゃ」

「ええっ!」


 俺はプリシラと共に声を上げた。

 ディアがガルディア家を継ぐ意思を示せば、家督継承者の証であるセオソフィーは彼女のものになるから、クロノスに渡す必要はなくなる。

 だが、彼女にその意思はないはず。


「兄たちをまとめて謀殺したようなヤツなんてどうせロクな人間ではあるまい。ディアよ。おぬし、内心ではクロノスに家督を継承させたくないと思っているのではないか?」


 心の内を見透かしたかのようなスセリ。

 ディアは否定せず、うつむいて押し黙っている。


 しばらくの沈黙の後、彼女はおもむろに腰のポーチに手を入れる。

 そこから袋を取り出す。

 そして袋をさかさまにし、手のひらに中身を落とした。

 それは、赤い光を鼓動させる宝珠だった。


「まさかこれ……!」

「セオソフィーと対をなす宝珠――フィロソフィーです」

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