120-3
スセリは驚くべき握力で俺の決意を拒んでいる。
往生際が悪すぎる。
「ためしに1ページだけ入れてみるのじゃ。それでダメなら……」
最後のほうはモゴモゴと言葉にならないことを言っていた。
あぜんとしている俺から『オーレオール』奪い取るスセリ。
そして1ページだけちぎってガラスの棺に入れてしまった。
「ほれ、神とやら。いけにえは捧げたのじゃ。これで文句あるまい」
――……。
神はなにも言わない。
沈黙が続くほど不安が増していく。
冷や汗をたらすスセリ。
「神の怒りに触れたのではなくて?」
「スーセーリーさーまー?」
俺とプリシラとマリアの非難の視線がスセリに注がれる。
「黙って待つのじゃ!」
辛抱強く待っていると、やがて神が声を発した。
――よかろう。膨大な魔力を秘めたこの紙片をいけにえとしよう。
「ほらの?」
スセリがドヤ顔をした。
結果として『オーレオール』を失わずに済んだのだからスセリの行為は正しかったわけだが、どうにも釈然としなかった。
……よくよく考えてみると、俺も『安易な選択』をしてしまったのかもしれない。
――我はこの魔力をもってこの大地を管理し、そなたらに豊穣を約束しよう。
「あ、ありがとうございます、神さま」
「村を襲っていた機械人形も止めてくださいっ」
「そうでしたわ。それもお願いしますわ」
――オートマタのアルゴリズムのバグを確認。ただちに修正いたします。
いきなり口調が変わって驚く。
古代文明の遺跡でよく聞く『音声』というものだ。
外に出る。
冬の門をくぐって秋の世界に行ってみる。
そこにはやはり、一定範囲を哨戒する機械人形たちがいた。
さて、彼らの暴走は止まっているのだろうか。
おそるおそる近づく。
もちろん、即座に障壁を展開できるようにしながら。
「……」
至近距離まで近づくも、機械人形は俺たちの存在を完全に無視して見張りを続けていた。
人間を敵と認識していない。
これで村が機械人形の襲撃にあうこともなくなるはずだ。
「よかったですね、ラニスさま」
「……はい」
ところが、どうしてかラニスは浮かない顔をしていた。
「……いけにえに捧げられたわたしが戻ってきたら、怒られるのではないでしょうか」
なるほど。それを懸念していたのか。
「怒るわけないじゃないか。むしろよろこんでくれるさ」
「そうでしょうか……」
ラニスの言いたいことはわかる。
村の人々は『いけにえに捧げる』こと自体を安心の材料にしていた。
にもかかわらず、いけにえが生きて戻ってきたら、また不安に駆られる。
「神さまの怒りは鎮めた。俺たちがそれを証明する」
「アッシュさん……」
「だからラニスは堂々と帰るんだ」
「はいっ」




