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120-2

 俺の手には一冊の本。

 膨大な魔力を秘めた魔書『オーレオール』だった。


 みんな驚いた表情をしている。

 特にスセリなんかは今にも目玉がこぼれ落ちそうだ。

 この魔書の秘められた魔力なら人間の命の代わりくらい果たせるだろう。


 ラニスが慌てて俺の腕をつかむ。


「だ、だめですよアッシュさん! その本は大事なものなんですよね……?」

「それほど大事でもないさ。少なくとも、ラニスよりかはな」


 なんて気取ったセリフを言ってみる。

 もっとも、そのセリフは真実だ。

 ラニスが助かるのなら、よろこんで『オーレオール』を放棄しよう。


「いいだろ? スセリ」

「……」


 スセリはもどかしげな表情をしていたが、あきらめて長く大きなため息をついた。


「ワシに許可を求めてどうする。『オーレオール』はおぬしに託しておる。好きにするがよい。まったく、ワシの血からおぬしのような甘ったれが生まれるとはのう」


 最後の嫌味は無視する。


「そういうわけだから、ラニス」


 俺はラニスの手を握る。


「キミが犠牲にならなくてもいいんだ」

「でも……、でも……!」


 そこから先は言葉にならず、ラニスはその場にへたり込むと、せきを切ったように泣きじゃくった。

 俺は彼女をやさしく抱きしめた。

 彼女の気が済むまで泣かせてあげた。


「……ありがとうございます」


 さんざん泣きはらした彼女の目は、ウサギみたいに真っ赤になっていた。

 ラニスをマリアにまかせると、俺はガラスの棺の前へと向かった。


 魔書『オーレオール』を手放すのに後悔はない。

 ……とは、実は言い切れない。

 神に等しい力を持った万能の道具を平然と捨てられる人間がどこにいるというのか。


 それでもやはり、この魔書とラニスを天秤にかけると、秤は彼女のほうに傾く。

 ラニスを守りたい。彼女のためなら万能の魔書をなげうつ価値はある。

 その思いがなによりも勝っていた。


 ガラスの棺の前に立つ。

 ……今まで助けてくれてありがとう。

 棺の中に『オーレオール』を入れる。


 ……その手を、おもむろにつかまれた。


「ま、待つのじゃ……」


 スセリが必死な形相で俺の手首をつかんでいた。

 青ざめた顔をしているのに目は血走っている。

 この期に及んで……。


「お、俺に決断をゆだねたんじゃなかったのか……?」

「まあ、待て。待つのじゃ。よくよく考えてみたのだがの、なにも全部捨てるまでもなかろう」

「へ……?」

「1ページ。1ページじゃ。1ページだけ破って捧げるのじゃ」

「1ページって……。そんなセコいことして神の怒りに触れたらどうするんだ」

「神なんておらんわ。おおかた『神』と呼ばれておるのは古代文明の人間が作り出したプログラムじゃ」

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