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120-1

 神殿へとたどり着いた。

 神殿はくすんだ灰色をしていることから、長い年月、ここにあり続けたのがわかる。


 外観は美しく神々しく、しかし朽ちかけている。

 ここが旅の終点であるのは間違いないだろう。

 入り口には大きな木製の扉がある。


 扉を開けようと手で押すも、びくともしない。

 俺とプリシラの二人で力いっぱい押して、ようやく扉は動いた。

 ゴゴゴゴ……、と重い音を立てながら扉が開いていく。


 扉を開けて中に入る。

 驚くべきことに内部は機械の照明によってくまなく照らされていた。

 分厚い雲に閉ざされて外よりもはるかに明るい。


 内部は一見すると教会のようだった。

 教会椅子が何列も並べられていて、壁際には杯や燭台といったこまごまとした調度品がていねいに並べられている。

 正面にはステンドグラス。


 どこにでもある教会に見えたが、一部だけ異様なものがあった。

 ステンドグラスの前にガラスの筒が立ててあったのだ。人間一人分が入れる大きさの。

 その左右には機械で作られたなんらかの装置がある。


 ――いけにえよ。


 教会内部に正体不明の声が反響する。

 これが『神』の声か。


 ――長き旅路を終えたのをねぎらおう。


 そのセリフとは裏腹に、神の声には感情はこもっていない。

 古代文明でたびたび聞く、機械による音声だ。

 だとすると、なにを言い返してもむだだろう。融通のきかない相手だ。


 ――最後の儀式だ。


 いけにえを招くかのようにガラスの筒の側面が開く。


 ――その棺へと入り、その命をこの楽園に捧げるのだ。


「……」


 ラニスが俺を振り返る。

 そして、悲しくなるほどの苦笑いで言った。


「短い間でしたが、アッシュさんたちと出会えてよかったです」

「……まるで、別れのあいさつだ」

「はい。お別れのあいさつです」

「いけにえになりたくないんだろ? 今からでもいけにえにならない方法を考えよう」


 ラニスは静かに首を横に振る。


 ――捧げよ。その命を。


「だっ、だめです! ラニスさまは渡しませんっ」


 ――ならば呪われし災厄がおまえたちを襲うだろう。


 ラニスが一歩前に出る。


「わたしたちの村は、いにしえより命を捧げて村を守ってきました。先人たちの尊い犠牲をわたしの番で台無しにはしたくないんです」

「ラニス……」

「わかってくれましたか……?」


 納得なんてできるものか。

 仕方がないという理由で命を捨てるのを見ているだけなんてできるわけがない。


 ――捧げよ。その命を。


「……わかった」

「アッシュさん」

「ただし、捧げるのはラニスの命じゃない」

「え……」


 俺は手に持っていたものを、神に見せるかのように高く掲げた。


「ラニスの命の代わりにこれを捧げる」

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