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119-4

 さっきのように魔物が襲ってくるかもしれないのに、どうしてもうとうとしてしまう。

 ふとももやほっぺたをつねったりして眠気を覚まそうとするも、俺は徐々に底なし沼へと沈んでいってしまう。

 そして……。



「アッシュさん」

「……ん」


 声をかけられて、俺はいつの間にか途切れていた意識を取り戻す。

 ぼんやりとした頭で考える。

 俺は……、うっかり寝ていたのか。


「はっ」


 自分が居眠りしていたのを自覚した途端、意識が瞬時に覚醒して飛び起きた。


「す、すまない!」

「気持ちよく眠ってましたね」


 俺に声をかけてくれたのはラニスだった。

 彼女の肩越しにプリシラとマリアとスセリがいるのも見える。

 もちろん全員、とっくに服を着ている。


「見張りをしていたはずだったんだがな……」

「しかたありませんよ。魔物との戦いで疲れていたんですから」

「アッシュさまにも休憩が必要でしたからね」


 ラニスとプリシラは笑って許してくれたが、マリアとスセリは呆れた面持ちをしていた。

 無防備な彼女たちをほったらかして居眠りしてしまうとは……。

 これじゃ立場がないな……。


「次はアッシュさんが水浴びしてください」


 水浴びか。どうしよう。

 この暑さの中で冷たい湖に入れたらどれほど気持ちいいか。

 汗ばんだ肌を水で洗いたい。


「わ、わたしたちはうしろを向いていますからっ」


 俺が考えていると、ラニスが慌ててそう言った。


「スセリさま、のぞいちゃダメですからね」

「なぜワシだけ名指しなのじゃ」


 そういうわけで今度は俺が沐浴した。

 女の子四人が間近にいるせいで、どうにも落ち着かなかったが。


「ところでラニスよ。おぬし、男にモテるじゃろ」

「わ、わたしがですか?」

「ラニスさま、とっても美人ですからね?」

「あなた、男性に言い寄られた経験は一度や二度ではないでしょう?」

「じ、実はそうなんです……」


 ラニスは村の男性たちから交際を申し込まれた経験が何度もあったらしい。

 彼女はそれをすべて断ってきたのだと答えた。


「いったいどうしてわたしなんかが……」

「謙虚も過ぎれば嫌味じゃぞ」


 ラニスのような美少女なら異性に言い寄られないほうがおかしいくらいだ。

 ……だからこそ、俺への『役目』と、今回のいけにえに選ばれたのだろうが。


「男の人と話すのはこわいですけど、アッシュさんなら……」


 ぽっと彼女は照れるのだった。


「やれやれ、アッシュよ。おぬし、なんど乙女をたぶらかせば気が済むのじゃ」

「たぶらかしてない」

「してますわ」

「してますね」


 マリアとプリシラがスセリに味方したのだった。

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