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119-3

「ラニスさま、ご安心ください。ラニスさまをいけにえには決してさせません。アッシュさまならきっといけにえにさせない方法を考えてくださいます」


 ラニスは困った苦笑いを浮かべている。

 彼女は村のためなら自分が犠牲になってもかまわないと思っている。

 彼女もまた因習の村の人間なのだ。


 だが、同時に、死にたくないとも思っている。

 あたりまえだ。

 誰だって死にたくはない。


「ラニス」

「アッシュさん……」

「俺はラニスを助けたい」

「でも、わたしが犠牲になるのが最良の方法なんです」

「それは『最良』じゃない。『安易』なだけだ」


 ラニスがはっとする。


「安易な考えにはみんながすぐにすがりついてしまう。他の選択肢はないと思い込んでしまう。けど、必死に考え抜いた末に見つけた方法こそ、一番の結果にたどり着けるんだ」

「……はい」


 ラニスは涙ぐんでいた。


 俺が見つけてみせる。

 みんながしあわせになる方法を。

 ラニスをむざむざ死なせはしない。



 休憩を終えて先へと進む。

 しばらく歩いていくと、石造りの古い門の前に到着した。


「夏です!」


 プリシラの言うとおり、門の向こうの世界には夏の景色が広がっていた。

 青く澄み渡る湖に乱反射する日差し。

 緑の草原を自由に飛び回るトンボ。


「春の次は夏というわけですわね」


 驚きだ。

 門一つ隔てた先に別の季節の世界が広がっているなんて。

 まさしくここは四季の園だ。


 門をくぐった瞬間、夏の強烈な日差しが熱を伴って降り注いできた。

 上着を脱ぎたいくらいの暑さだ。

 気候まで変わってしまうとは……。


 こんなふしぎな場所があるのなら、人々が神の存在を信じるのも無理はない。


 うだるような暑さの中、俺たちは道を進む。

 澄み渡る青空に白い雲が漂っている。

 すがすがしい景色だ。


 こんな光景を眺めながら長い道のりを歩いていると、この旅の結末に少女の死が待っているなんてうそだと思えてしまう。


「わー、つめたいですっ」


 プリシラが湖のふちまで行って、手首まで湖につけた。

 俺も彼女の隣に並んで手首を入れてみると、湖はひんやりと冷たくて気持ちよかった。


「汗で身体がベトベトなのじゃ。ここらで沐浴でもせんか?」

「水浴びですか。いいですねっ」

「賛成しますわ」


 プリシラ、マリア、ラニスが同時に俺のほうをじっと見る。

 彼女たちがなにを言いたいかはわかっている。


「俺はうしろを向いていればいいんだな」

「す、すみません、アッシュさん……」

「アッシュも混ざればよかろう」

「よくありませんわ」


 というわけで彼女たちが服を脱いで水浴びしているかたわら、俺は彼女たちに背を向けて見張りをしていた。


「冷たいですねっ」

「それそれ、水攻撃じゃ」

「きゃっ、やりましたねスセリさまーっ。反撃ですーっ」

「加勢しますわ」

「ちょっ、おまっ、二人がかりは反則じゃろうがっ」


 楽しそうでなによりだ。

 俺は木陰に腰を下ろして少女たちのたわむれに耳を傾けていた。

 木陰で涼んでいると眠くなってくる。

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