119-2
木々の陰から再び魔物が現れる。
カマキリの魔物が二体。
その二体は素早い動きで接近してくる。
「炎よ!」
「風よ!」
俺とスセリが同時に魔法を発動する。
俺の放った炎が一体、スセリの放った風の刃がもう一体の魔物を攻撃した。
魔物たちは炎で焼かれ、かまいたちで細切れにされる。
「のどかな光景だけど油断したらいけないみたいだな」
「アッシュさん、やっぱり強いんですね」
ラニスがにこりと笑う。
「これだけ強いのに、やさしいんですね」
「俺はやさしいのかな……?」
「甘々ですわ」
「ケーキより甘いです。アッシュさまは」
マリアとプリシラに言われてしまう。
ほめられて……いないな。
ラニスは再びくすっと笑った。
「プリシラちゃん、マリアさん。強さとやさしさを両立するのはとっても難しいんですよ。強さを手に入れた人は、ちゃんとそれを使いこなせないと、ごう慢になっちゃいますから」
「アッシュなら心配いりませんわ」
「アッシュさまなら、ぜったいそんなことにはなりません」
これもほめられて……いないのだろうな。
「アッシュさんなら、きっと二人ともしあわせにしてくれますね」
「ラニス、うらやましくて?」
「実は、はい」
視線をそらしつつうなずく。
いじらしいしぐさだ。
そこにプリシラがこう提案する。
「でしたら、ラニスさまもアッシュさまと結婚しましょうっ」
「ええっ!?」
「わたし、ラニスさまならやきもち焼かないって約束しますっ」
「ええーっ!?」
「こんなアッシュでも妻の五人や六人は養える甲斐性はありますわ」
「ろ、六人って、もしかしてまだアッシュさんにはお嫁さん候補が……?」
「いるのですわ、これが」
「いるんですよねー」
ラニスは苦笑いを浮かべていた。
「意外ですね……。アッシュさんって、一途に一人の女性を愛する人かと思ったんですが」
ブンブンブンッ、とマリアとプリシラが頭がもげんばかりに首を横に振る。
「こやつは行く先々で異性と『仲良し』になるからの」
「困った人ですのよ」
「困ったご主人さまなんです」
途中、俺たちは木陰に腰を下ろした休憩をとることにした。
食べ物なら村の人たちがたくさん持たせてくれた。
プリシラが器用にナイフで果物の皮をむいて切り分け、みんなに配る。
果物を口に含む。
みずみずしくて甘くておいしい。上品な味だ。
きっと王都では高級な果物なのだろう。
「村ではいけにえを捧げる前夜にお祭りが開かれていたそうです。わたしのときは急な事態だったのでそれはありませんでしたが」
その祭りは、いけにえになったくれた人へのせめてもの感謝か。
あるいは、後戻りさせなくするためのものか。




