118-7
こんなのが他にも無数に眠っているなんて……。
プリシラが尋ねる。
「いけにえを捧げれば、本当に機械人形は目覚めないのでしょうか……」
「そんなわけあるまい」
スセリが答えた。
「機械人形の主人は人間じゃ。大昔に滅んだ古代の、じゃ。今の機械人形どもは主なき存在。プログラムに正確に従って動いているにすぎん。いけにえを捧げたところで敵と認識して光線で灰にするだけじゃ」
「やっぱりいけにはやめさせないといけませんわ!」
「そうですっ」
「また首をつっ込むつもりか……。やれやれ、なのじゃ」
よそから来た人間であろうと、迷信を信じて犠牲を出そうとするのを見過ごすわけにはいかない。
俺たちはすぐさま村に帰った。
村に帰ると、広場に人だかりができていた。
あの人数からすると、村人全員が集まっているのかもしれない。
人だかりのところまで行き、背伸びして前のほうをのぞき見る。
「ラニスさまです!」
人だかりは数人の人物を中心に輪をつくっていた。
中心にいた人の中にはラニスもいた。
花嫁のような美しい衣装と装飾品で着飾っている。
「ラニス!」
「アッシュさん」
人だかりを割って進み、ラニスのもとへとたどり着く。
着飾った美しい少女……。
嫌な予感しかしない。
「アッシュさん。お手紙のお返事は書けそうにありません」
そう、さみしげに微笑む。
「わたし、いけにえに選ばれたんです」
ラニスの側にいた長老と老人たちが俺たちに問う。
「機械人形は倒せたのですか?」
「なんとか倒しました。ですので、もういけにえは必要ありません」
「いえ、いけには捧げねばなりません。さもなくば再び神は使いの者を送ってくるでしょう」
「あれはただの古代人の兵器です。神は関係ありません」
「機械の姿をした神の使いなのです」
ダメだ。この人たちに説得は通じない。
どんな正論を説いたとしても。
村で権力を持っている老人たちは神をかたくなに信じ、敬い、恐れている。
それでも、ラニスを犠牲にはしたくない。
「なら、俺たちがその神を――」
「のう、おいぼれども」
俺の言葉を遮ってスセリがなにか言い出した。
「いけにえを捧げにいく際に護衛が必要らしいの」
「そうですが」
「その護衛役、ワシらにまかせてもらおう」
「……」
長老たちはいぶかしげにスセリをじろじろと見ている。
疑いの目だ。
彼女はいつものひょうひょうとした顔をしている。
目配せしあったあと、長老たちはうなずいた。
「承知しました。おまかせしましょう。ですが、くれぐれもいけにえを連れて逃げるなどというまねはなさいませんよう」
「わかっておる。『四季の園』とやらに連れていけばよいのじゃろう」
四季の園。
長老たちの話によると、そこは神が住まう場所とされているらしい。
人間が立ち入るのを禁じられた聖域で、いけにを捧げるときのみ踏み入るのを許されているという。
俺とプリシラとマリア、スセリは、いけにえとなったラニスを連れて村を発った。
目的地までの道を俺たちは歩く。
「ありがとうございます。アッシュさんたちがいるのなら安心です」
ラニスが笑顔で言う。
「わ、わたし、誇らしいです。村を守るための力になれるんですから」
しかし、声は震えている。
俺たちに本心を悟られないよう、あくまで平然をよそおっている。
それが余計にいたたまれなかった。




