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「茶番を繰り広げているところあいにくじゃが、船が来たのじゃ」
海のほうを見る。
晴れた青空と大海原の間に引かれた水平線に、帆を張った船が浮かんでいる。
船はこちらに近づいてくる。
村を去る時間がやってきた。
「アッシュさん、王都に帰っちゃうんですね」
名残惜しげなラニス。
「せっかく知り合えたのに、もう会えないんですね」
当初、彼女は俺が村に残って交際してくれると思っていたのだ。
彼女の勘違いとはいえ、俺はそれを否定してしまった。
少し罪悪感をおぼえる。
「この際だから本当に結婚して村に残るのはどうじゃ? のじゃじゃじゃっ」
スセリ、頼むから蒸し返さないでくれ……。
ラニスが「それは名案です」と言いたげに顔を明るくしているじゃないか。
俺は咳払いしてこう言う。
「また会いにくる。約束する。手紙も送るから」
「あ、ありがとうございます……!」
するとプリシラがしょぼんとうなだれる。
「アッシュさま、やっぱりラニスさまのことが……」
「恋愛感情はないから!」
今度はラニスが落ち込む。
「ううう……。そうきっぱりと言われてしまうとがっかりします……。やっぱりわたしには魅力なんてないんですね……」
「い、いや、ラニスはすごく美人だから」
「アッシュさまー? わたしよりもですかー?」
「わたくしよりも、ですの?」
「お、同じくらいだ! みんな同じくらいかわいい! それぞれの良さがある!」
「のじゃじゃじゃじゃっ」
困り果てる俺をスセリが楽しそうに見物していたのだった。
子孫の将来の結婚相手に関わっているのを自覚しているのかいないのか……。
「わたしは長老や大人たちからアッシュさんの結婚相手になるよう言われたんです」
この孤島の小さな村は近縁同士の結婚ばかりにならないよう、外からの血を積極的に取り入れているのだという。
何年かおきに成人した村人から何人かが選ばれ、島を離れて大陸で結婚相手を連れて戻ってくる風習があるらしい。
そして、村にときおり訪れる者には伴侶をあてがい、子を残してもらっているのだとか。
「きっかけこそ大人たちからの命令でしたが、わたしはアッシュさんとお話しして、アッシュさんのことが大好きになりました。勇敢なだけじゃなくてやさしい人なんですね」
「はいっ。アッシュさまはとっても強くてやさしいんですっ」
プリシラが自分のことのように自慢する。
こうもほめられると照れくさい。
「ラニスには俺よりいい人がきっと見つかるさ」
「そうでしょうか」
「アッシュさまよりもステキな人ですか……。世界に何人いるのでしょう……」
「や、山ほどいると思うぞ、プリシラ……」
さて、いいかげんに村を発たなくてはいけない。
ラニスや長老たちに別れの挨拶を述べようと思った――そのときだった。
「たいへんだー! 機械人形がまた現れたぞー!」
村人の一人が俺たちの前に走ってきた。




