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その違和感は翌日、すぐに解消された。
「アッシュさん、昨夜はご満足いただけましたか?」
長老がそう訪ねてきた。
長老の言う『昨夜』には二つの意味があるのだろう。
宴と、ラニスとの夜。
「俺たちのために盛大な宴をありがとうございます」
とりあえず俺はそう無難なお礼をした。
長老としてはそのあとのことが気になっていたらしく、続けて質問してきた。
「ラニスはいかがでしたか? 気立てのよい娘でしょう? 村一番の美人なのです」
村一番か。
確かにあの美貌なら間違いなく一番だ。
「アッシュさんがその気なら、ラニスを妻として迎えていただけませんかね」
「その件なら、昨夜、本人に断りました」
「そうでしたか……」
長老は落胆した。
小さな集落の長としては、どうにかしてランフォード家の血を入れたかったのだろう。
だが、申し訳ないが俺にはそんな気はないし、ラニスにだって失礼だ。
これでこの件はおしまい。
……だったはずが、ラニスが横からずいっと現れてこう言った。
「ですので、まずはお付き合いから始めることになりました」
「ええっ!?」
横で聞いていたプリシラとマリアがすっとんきょうな声を上げた。
もちろん俺もだ。
ラニスは上目づかいで恥じらいつつ続ける。
「交際を続けて、お互いの気持ちが通じ合えば結婚することにしたんです」
「それはそれは! めでたいことだ! アッシュさんもお人が悪い。はじめからそうおっしゃっていただければよかったではないですか」
「ま、待て待て!」
俺は慌てて否定する。
プリシラとマリアがジト目で俺を訴えているのだ。
「交際するなんて一言も言ってないぞ!」
「え? わ、わたしはちゃんと聞きましたよ……? 昨夜、二人で夜を共に過ごしたときに」
プリシラとマリアがジト目で接近してくる。
「アッシュさまー?」
「どうして夜中にこの子と会う必要がありましたの? 具体的に『なに』をしていたのかしら」
完全に誤解されている。
……いや、誤解とも言いきれないのだが。
「納得のいく説明を」
「してくださいまし」
マリアとプリシラ、そしてラニスの誤解を解くのにかなりの時間と労力を要した。
昨夜、結婚相手としてラニスをあてがわれたこと。
それを断ったこと。
おしゃべり以外のことは決してしなかったこと。
事情を説明してからも、二人はまだ俺を疑っているようだった。
似たような件は過去にもあったからな……。
俺が交際するつもりがないのを知ったラニスは茹で上がるくらいに恥ずかしがっていた。
「わ、わたしったらとんだ勘違いを……! すみませんでしたっ」
「ラニスさまが謝る必要はありませんよ」
「悪いのはアッシュですもの」
俺が悪いのか……。
「もっとも、ライバルが一人増えたくらい、どうってことなかったですけれど」
マリアが自信満々に胸を張る。
それに対してプリシラは心底ほっとしていた。
「わたしは気が気じゃなかったです。これ以上、競争相手が増えたら……」
「自信を持ちなさい、プリシラ。あなたはわたしくしの最大のライバルですのよ」
「……! はいっ」
女の子同士の友情が繰り広げられていた。




