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そう言うと、ラニスはほっと安心した顔になった。
「よ、よかった……。わたし、こういうの経験したことが――」
とまで言ってから赤面する。
「なかったので……」
消え入りそうな声で続けた。
なんともいじらしい。
「こういうのは互いに想い合う人同士じゃないとな」
「はい。そう思います。で、でも、冒険者さまもステキな人だと思いますよ」
美少女におせじでもそう言われたらうれしくなってしまう。
「他の方たちは冒険者さまの恋人だったりします?」
「えーっと」
なんと答えるべきか。
恋人ではないはずなのだが、ここで即座に否定したら、それはそれで彼女たちに失礼な気がする。
ラニスは興味津々だ。
さて、なんと答えるべきか。
ズルいが話題を変えることにした。
「ちなみに、さっきも言ったけど、俺の名前はアッシュだ」
「そ、そうでした……。緊張していて……。アッシュさまですね。おぼえました」
「『さま』はいらないんだがな」
「じゃあ、アッシュさんで」
同い年くらいだろうから『さん』もいらないのだが、別にそこまでこだわりがあるわけではないから、それ以上訂正はしなかった。
「でも、どうしましょう。このまますぐに戻ったら長老さまたちに怒られちゃうかも」
「俺からも言っておくよ。『役目』は必要ない、って」
「それはそれで両親に恥をかかせちゃいます」
確かに、村を救った英雄に拒絶された娘、となったら親にとっては不名誉かもしれない。
むずかしい話だ。
「や、やっぱりわたし、『役目』をします!」
「い、いや、それはいいから!」
やけになったラニスが服を脱ごうとするのを俺は慌てて止めた。
気が動転するとなにをするかわからないな、この子は……。
そういうわけで適当な時間になるまでラニスに自分の話を聞かせることにした。
離島の小さな村から出たことがないラニスは、王都の話や冒険の話はとても刺激的だったらしい。彼女は俺のつたない語りに真剣に聞き入っていた。
こうも真剣に聞かれると俺もだんだんと気分がよくなっていき、少々誇張しながら古代の遺跡の探索や魔物との戦いを語ったのだった。
「いいなあ、王都。わたしも行ってみたいです。おしゃれな服がほしいです。ケーキやタルトも食べてみたいですし」
「ラニスみたいな美人が王都に現れたら、貴族の人たちがこぞって求婚するだろうな」
「わ、わたしなんてぜんぜん美人じゃありません……」
ぽっと顔を赤らめて照れるしぐさがかわいい。
ラニスが美人なのは客観的にも正しい。
そうでなければ機械人形を討伐した勇者に差し出されるわけがないのだから。
ラニスがぐいっと詰め寄ってくる。
「で、でも! もしわたしがアッシュさんの好みなら、今夜は――」
「それはだめだ」
男女の夜の交渉は真剣な交際の末にするものだ。
俺はそう言った。
「そうですね。まずはお付き合いからですね」
「普通はそうだと思う」
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
ぺこりとおじぎをするラニス。
……なんだか違和感のある返事だったな。




