117-3
「グレイス王」
話しかける機会をうかがっていたのか、会話が一区切りするとキィが口を開いた。
「私も今回の報酬をもらいたい」
「……」
国王陛下が眉をひそめる。
嫌な予感がしたときにする表情だ。
どうしてだろうか。キィも功労者の一人のはず。
「……言うだけ言ってみろ」
促されてもキィは黙ったまま。
沈黙が訪れる。
俺たちは国王陛下とキィを交互に見る。
キィはなにをためらっているんだ……?
陛下もどうしてそんな顔を……。
しばしの沈黙のあと、ようやくキィは口を開いた。
「グレイス王。私を実の子だと認めてもらいたい」
「ええーっ!?」
と叫んだのは俺とプリシラとマリア。
さすがのスセリもきょとんとしている。
国王陛下はその要求を予想していたらしく、だるそうにひじ掛けにもたれて視線をそらしていた。
思いもよらない言葉だった。
国王陛下以外にとっては。
「キィ、王女さまだったのか!?」
「キィは私の隠し子だ」
「隠し子!?」
「公には、私はキィを自分の子だとは認めていない。スレイザール家にひそかに引き取ってもらったのだ」
「どうしてです?」
「そ、それは……」
気まずそうに口ごもる国王陛下。
陛下の代わりにキィが答えた。
「私はグレイス王の不倫の末に生まれた子だからだ」
キィは国王陛下と市井の女性との秘密の恋愛の末に生まれた子だという。
その事実を知るものはごく一部の人間らしい。
「スレイザール家が不満か?」
「いいや。私はスレイザール家の人たちを本当の家族同然に思っている」
「なら、ドレスを着てパーティーに出たくなったか?」
冗談を言われてキィがムカッとしてこう言った。
「父親が目の前にいながら甘えられないのが、肉親でありながら他人のフリをされるのが、子供にとってつらいことがわからないのか?」
「……」
国王陛下は押し黙る。
罪悪感をおぼえているようす。
「あなたに甘えるのがそんなに許されないことなのか?」
国王陛下がキィを自分の子として認めることは、王族の関係に少なからぬ影響を及ぼす。
王族間の序列。
財産の相続。
国王陛下であるがゆえに「我が娘よ」の一言すら安易には許されない。
キィだってそれを理解してないわけがない。
「これは私のわがままだ」
「お前はもう少し聡い娘だと思っていたが」
「私が愚かに見えるのなら、きっと誰かさんに感化されたのだろう」
キィは俺を見て苦笑した。
国王陛下は観念したよすうでこう言った。
「……しかたない。お前たち、もう下がってよい。キィはここに残れ」
「それって……」
「甘えん坊だな、キィは」
ふっと笑みをこぼす国王陛下。
キィの顔がぱあっと明るくなる。
俺たちは二人を残して玉座の間を去ったのだった。




