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117-2

 キィが勝ったのだ。

 なのに、妙に後味が悪い。

 キィが言う。


「……こうならない結末はあっただろうな。きさまたち次第では」

「いいや。いずれ我らはこうなる結末だった。戦って、戦って、死ぬまで戦う」

「あきらめていただけだ」

「あきらめるというのは、一筋でも希望の光が差している者が取れる選択だ。我らに選択の余地などなかったのだ」

「……」


 キィの表情には同情はなかった。

 悪の手先を憎んでいるようすでもなかった。

 同類を見ているように見えたは俺の気のせいだろうか。


「選択とは、希望の光が差すのを待ちぼうけることではない。暗闇の中を手探りで進むことだ」

「甘い……な……。青臭い……セリフだ……」


 のっぽは苦痛をこらえつつ嘲笑した。


「アリアンナ。逝くときは共にという約束だったな」


 のっぽがちびのそばまではいずり、そして息絶えた。

 兵士たちが矢を射って槍で突いていた怪物が、まぼろしであったかのように霧散する。

 静寂が訪れた。


 しばらくの静寂ののち、兵士体は歓声を上げた。

 たぶん、自分たちが怪物を追い払ったと思い込んでいる。

 わざわざ「俺たちが倒しました」と主張する気はなかったので、ひとまずキィの手当てをすることにした。



 ヴォルカニア王国に限った話ではないのだが、孤児や奴隷を暗殺者として育成する闇の組織というものが存在する。

 のっぽとちびもおそらく、そういう境遇だったのだろう。

 敵を殺すことだけを教え込まれていた中で、彼らにも彼らなりのきずなが育まれたのかもしれない。


 そんな彼らを倒すべき敵であり悪であると割り切れると、みんなは思うだろうか。


「アッシュ・ランフォード。和平の使者としての任務を終えてからひと月が経ったが、ディアトリア王国とイス帝国が和平を結んだのは知っているか?」

「はい、陛下。新聞で知りました」


 結局、イス帝国は国としては認められなかった。

 もっとも、それはイス帝国を打ち立てた独立派の敗北で終わったわけではない。

 イス帝国と呼ばれていた土地は、ディアトリア王国のいち領土としての自治を許されることになった。


 また、今回の騒動で腐敗した政治を見直すことも国は独立派たちに約束した。

 ひとまずよい落としどころだと思う。

 なお、和平の会談はこのグレイス王国で行われたのだ。


「和平が結ばれたのはまぎれもなくお前たちのおかげだ。約束どおり『シア荘』の改装をしてやろう」

「やりましたね、アッシュさま」


 プリシラが耳打ちしてきた。


「天蓋付きのベッドを忘れるでないぞ。メイドもプリシラ以外に二人増やすのじゃ。あとはワシ専属の秘書も――」

「スセリさま、無礼ですわよ」


 マリアがたしなめるが、国王陛下は特に気分を害してはいないようだ。


「あー、かまわん。そいつのことはもうあきらめている。好きにさせておけ」

「とのことじゃ」


 ドヤ顔するスセリ。

 マリアは呆れてため息をついていた。

 世捨て人には王の威光など取るに足らないものなのだろう。

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