117-1
のっぽがちびをそっと地面に横たえる。
それからのっぽは剣を構え、キィに向き直った。
キィも剣を構えて対峙する。
のっぽの目はうつろだった。
悲しみも復讐心すらも宿っていない、からっぽの瞳。
大切なものを永遠に手放してしまったときの目だ。
彼は知ってしまったのだ。
もはや俺たちを皆殺しにしたところで大切な人は戻ってこないのだと。
生けるしかばねだ。
彼が引き連れてきた怪物は今も城を攻撃している。
「障壁よ」
スセリが巨大な魔法の障壁を怪物と城の間に発生させて攻撃を遮っている。
怪物の口から発射される光線は一撃で障壁を破壊する。
そのたびにスセリは障壁を立て直していた。
怪物の足元の兵士たちはいっしょうけんめい攻撃しているが、びくともしない。
怪物がドシンッ、と足を踏み鳴らす。
足元に群がっていた兵士たちはその一撃でけちらされた。
まるでアリが人間に立ち向かう光景だ。
「これではらちが明かんのじゃ」
スセリが俺に問う。
「アッシュよ。おぬしならどうする?」
「お、俺……?」
のっぽとキィの動向に集中していた俺は戸惑う。
「おぬしならこの怪物をどう対処するのじゃ」
「そ、そうだな……」
俺は思いついたことを口にする。
「あんな強力な光線を真正面から防御するのは得策とはいえない。受け止めるんじゃなくて『そらす』ことはできないか?」
「ふむ、及第点を与えるのじゃ」
また障壁が光線で破壊された。
スセリは再び障壁を張るのかと思ったが、今度は違った。
二つの空間の穴を出現させた。
一つは怪物の正面。
もう一つは上空。
怪物が光線を吐くとそれは正面の空間の穴に吸い込まれ、上空のほうの穴から吐き出された。
これにより、怪物の光線は無意味に空に飛んでいくこととなった。
あまり頭はよくないのであろう。怪物は延々と穴に向かって光線を吐き続けていた。
「これでひとまずは無力化できたじゃろ」
キィとのっぽに再び注目する。
すでに何度か剣を打ち合ったらしく、二人とも肩で息をしている。
互いの距離は近い。
どちらも一回地面を蹴れば剣の間合いに相手が入る。
「私はきさまを生け捕りにする気はない。我が剣で成敗する」
「私とて、もはやむざむざ生き延びるつもりはない。だが、道連れにはさせてもらう!」
のっぽが疾駆する。
キィも地を駆ける。
二人が交差する。
互いの位置が入れ替わる。
一瞬の出来事だった。
二人とも、剣を振りぬいた格好のまま動かない。
俺たちも時間が止まったかのように硬直していた。
「っ!」
二、三度のまばたきの時間を置いてから、キィの頬に赤い線が引かれ、血が垂れる。
「ぐはっ!」
のっぽのほうは胸から鮮血を噴出させて倒れた。
倒れたのっぽを中心に、みるみる血だまりが広がる。
致死量の失血だ。




