116-7
「ディアトリア王国は和平の会談に応じてくれた! こんなことしたってもう意味がないんだ!」
俺は氷の刃の連撃を防御しつつ説得する。
だが、ちびは攻撃の手を少しも緩めようとはしない。
「この襲撃がイス帝国のものだと思わせたらどうなると思う?」
「なっ!?」
ちびの言葉に俺は驚く。
あの怪物がイス帝国のけしかけたものだと勘違いされたら、和平の会談は台無しだ。
「私たちはまだ負けていない。ここでお前たちを殺せば私たちの勝ちだ」
ちびが地面に手を当てる。
俺はとっさに飛び退く。
次の瞬間、俺がさっきまでいた場所に鋭い氷の柱が無数に出現した。
ちらりと脇を見る。
隣ではのっぽのほうがやはりいた。
スセリたちが無数の分身を相手に戦っている。
「どうしてお前たちはそこまでして……!」
無駄だとわかっていながらも俺はついそう口にしてしまう。
やはり甘ったれだ、俺は。
その言葉がしゃくにさわったらしく、ちびの暗殺者は不愉快そうに顔をしかめていた。
「私たちにはこういう生き方しかなかったんだ!」
だが、結果として俺のつぶやきは状況を好転させた。
よほど俺の言葉が気に食わなかったらしく、ちびの攻撃があからさまに乱暴になった。
大ぶりの攻撃は隙だらけ。
攻撃と攻撃の合間をついて俺は一撃を加えようとした。
ところがそのとき、足首を何者かにつかまれて俺はつんのめった。
足元に目をやると、俺の両足は地面から生じた冷気によって氷漬けにされていた。
ちびの罠を踏んでしまったのだ。
ちびが氷の刃を水平にして接近してくる。
死が迫ってくる。
俺の頭に死の一言がよぎる。
だが、その刃が俺の心臓を貫くことはなかった。
「ぐはっ……!」
心臓を貫かれたのはちびのほうだった。
背後から突き立てられた剣が、ちびを串刺しにしていた。
ちびが倒れると、その背後にいたキィの姿が現れた。
「危ないところだったな」
「……すまない。助かった」
血だまりの上に倒れたちびの暗殺者。
驚愕の表情のまま絶命している。
最期の瞬間まで、自分が誰によって、どのようにして殺されたのか理解できなかったのだろう。
「アリアンナ!」
のっぽのほうの暗殺者がちびのほうへと駆け寄る。
剣に貫かれたままのちびを抱きかかえる。
のっぽはちびを強く抱きしめていた。
目からは涙を流している。
その光景で、この二人がどんな関係だったのか思いをめぐらせてしまう。
兄妹だったのか、恋人だったのか、かけがえのない仲間だったのか……。
同情がわかなかったといえばウソになる。




