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コラプビーストの動きがぴたりと止まる。
そしてゆっくりと背後を振り返った。
目が合うプリシラとコラプビースト。
まずい!
俺はとっさに飛び出した。
そして、コラプビーストの魔力阻害の圏内に入る前に金属召喚を唱えた。
プリシラは動揺して身をすくませている。
コラプビーストは完全に彼女に敵意を向けている。
そして、配下を呼ぼうと鳴き声を上げる――寸前、それは阻止された。
はるか上空から降ってきた金属のかたまりがコラプビーストに直撃したのだ。
速度と質量を乗算した強烈な一撃は背中の水晶を砕いた。
「貫け!」
背後からスセリの声が聞こえる。
そしてさらに背後から極太の光の矢が飛んできて俺を追い越し、コラプビーストの首を貫いた。
頭部が吹き飛ぶ。
絶命したコラプビーストは塵となって消滅した。
「あわわわ……」
へたり込むプリシラ。
俺は額に浮き出ていた汗をぬぐって息をついた。
危ないところだった……。
「召喚した金属自体は魔法ではないから打ち消されなかったのじゃな」
「確信はなかったけどな。ばくちだった」
「しかもはるか上空に召喚して、落下の威力を増すとは。やるのう」
とっさに思いついた作戦にしては上出来だ。
「ううう……」
プリシラはというと、目に涙を浮かべて落ち込んでいる。
「メイド失格です。みなさんの足を引っ張ってしまうなんて……」
「いや、プリシラはじゅうぶんがんばった」
俺はプリシラの頭をなでる。
彼女はくすぐったそうな片目を閉じて俺に身を任せる。
「魔法が使えない中で一人で戦おうとしてくれたんだ。決して足手まといなんかじゃない」
「結果的におとりになってくれたしのう」
「あ、ありがとうございます……!」
こうして人々を困らせていた魔物を討伐したのだった。
ディアトリア城下町の冒険者ギルドに報告するとギルド長にたいへんよろこばれ、王城の大臣にも感謝をされた。
コラプビーストを討伐したうわさは驚くべき速さで町中に広まり、俺たちはちょっとした英雄扱いになったのだった。
「お恥ずかしい限りです。よその人間の力を借りねばならないとは。ははは……」
大臣は気まずそうにそう言う。
「それにしてもさすがランフォード家の子息。和平の使者の片手間に魔物を討伐するとはな」
国王はとても感心していた。
キィはというと、俺をジト目で見ている。
おおかた「自分の本来の使命を忘れたのか」と言いたいのだろう。
「イス帝国を自称する連中との和平の件だが、和平の席に着くことに決めた」
「ありがとうございます!」
「やつらももとは我々の国民。国民同士で争うほどくだらぬことはないからな」
その国民を虐げてきたのにどの口が……。
というのは心の中にとどめておいた。




