12-3
「どんな案だ?」
「てへへ。とにかくここはわたしにおまかせくださいっ」
プリシラがセヴリーヌのほうを向く。
「セヴリーヌさま。さっきのパスタはおいしかったですか?」
セヴリーヌは涙を拭う。
「ああ。おいしかったぞ」
「実はあのパスタ、わたしたちが持ってきたんです」
「そうなのかっ」
セヴリーヌが興味を示した。
「ケルタスの街の路地裏に『夏のクジラ亭』っていう宿屋があって、そこの食堂で食べられるんですよ」
「行ってみたいぞっ」
ぱあっ、と表情が明るくなる。
テーブルに手をついて身を乗り出し、プリシラに顔を近づける。
「たぶん、わたしたちがお願いすれば毎日食べさせてくれますよ」
「毎日! まいにちあんなおいしい料理を食べられるのかっ」
……なるほど。そういうことか。
うまいな、プリシラ。
秘策『ごちそうで釣り出す作戦』その2だ。
そういえばセヴリーヌ。ふだんの食事はどうしているのだろう。
自分でつくっているのか。
それともゴーレムのウルカロスがなんとかしているのだろうか。
あるいは、不老だから食事は不要なのか。
「だからその代わりに、スセリさまに協力してくれませんか?」
「うっ……」
交換条件を提示され、セヴリーヌがうろたえる。
おいしいパスタを食べるには憎き恋敵に協力しなければならない。
葛藤。
揺れる天秤。
だが、彼女の表情を見る限り、勝利の天秤は俺たちのほうに傾きかけている。
「う……わ……」
セヴリーヌが声を絞り出す。
「わかった。力を貸すぞ」
「ありがとうございますっ」
「け、けど! ごはんが先だっ。さっきは途中でジャマが入ったからな」
交渉成立だ。
そういうわけでさっそく俺たちは家を出たのであった。
「ウルカロス。留守の間の番をよろしくな」
「かしこまりました。セヴリーヌさま」
恭しく頭を下げるウルカロス。
本当によくできたゴーレムだな。
「なあ、ウルカロスを家の前に立たせてるのって……」
「クロノスの手下がたまに来るから、ウルカロスにやっつけさせてるんだ」
やっぱりそうか。
クロノス・ガルディアとの関係も後でちゃんと聞かないとな……。
暗殺者を差し向けられてるということは、ろくでもない関係なのは間違いない。
そうして俺たちはケルタスの門をくぐり、西区の路地裏へと入った。
そこにぽつんと建っている宿屋『夏のクジラ亭』へと入る。
「なんかボロい宿屋だな」
「でも、おかみさんはとってもいい人で、店主さんの作る料理はすっごくおいしいんですよ」
「ホントかー?」
ロビーに現れた俺たちをおかみさんのクラリッサさんが出迎える。
「おかえり、あなたたち。あらっ、知らない子がいるわね」
「アタシはセヴリーヌだぞ」
「ああっ! あなたがセヴリーヌちゃん!」




